新車試乗レポート
更新日:2024.01.06 / 掲載日:2023.12.27
これ以上、望みようがない完成度【メルセデス・ベンツ GLC350e 4-MATIC】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス 車両協力●メルセデス・ベンツ日本
Cクラス相当のSUVモデルとして2015年に発売されたGLCは、SUVが乗用車の中心的存在になってきた時代とマッチしたこともあって世界の累計販売台数が260万台もおよぶベストセラーとなった。
プラグインHVモデルは感動するほどの出来栄え

2023年には初のフルモデルチェンジとなり、4月に日本上陸したばかりのディーゼルMHEVのGLC220d 4MATICに試乗したのだが、その出来映えは感動的ですらあった。2030年にBEV(電気自動車)専売ブランドとなる用意があると表明しているメルセデスのなかにも、ICE(内燃機関)派のエンジニアがいて、BEVシフトを前に意地で気合いを入れたのではないかと想像したほどだ。
だが、GLC220d 4MATIC から遅れること約8ヶ月で日本導入となったPHEV(プラグイン・ハイブリッド)のGLC 350e 4MATIC Sports Edition Starに乗ると、その想像はちょっと違っていたことに気が付かされた。BEVシフトへ向けた電動車としての出来映えもまた感動するほど素晴らしかったからだ。
先代にもGLC350e 4MATICスポーツというPHEVがラインアップされていて、211PSの2.0Lガソリンターボ・エンジンに85kW(116PS)の電気モーターが組み合わされ、システム総合では最高出力320PS、最大トルク700Nm。13.5kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載して等価EVレンジ(EV走行換算距離)は46.8kmという性能だった。

これに対して新型のGLC 350e 4MATIC Sports Edition Starは204PSの2.0Lガソリンターボ・エンジンに100kW(136PS)の電気モーターが組み合わされ、システム最高出力は313PS、最大トルク550Nm。リチウムイオンバッテリーは31.2kWhとなって等価EVレンジは118kmとなった。パワーはほぼ同等ながらトルクは抑え気味となり、バッテリーの大容量化でPHEV最大の価値であるEVで走行できる距離を大幅に伸ばしたかっこうだ。GLCのボディにとって先代の最大トルク700Nmはトゥーマッチとも言えるものでPHEVが一般化していないときには、環境性能だけではなく動力性能でも魅力があるのだとアピールする算段だったのかもしれない。だが、そういった理解が進み、メルセデスAMGで弩級のパフォーマンスのPHEVがリリースされているので最適化を図ったのだろう。
電動化がもたらした圧倒的な力強さと静粛性

試乗スタート時はバッテリー容量が十分にあったのでElectricモードを選択してEVとして走り始める。バッテリーが大きいこともあって車両重量は2310kgにも及ぶが、電気モーターだけでも最大トルクは440Nmと図太く、しかも0−2100rpmの範囲から発揮するから低・中速域の動力性能には余裕がある。BEV(電気自動車)を走らせているのと感覚はかわらず、エンジン車よりも力強く、レスポンスがいいので扱いやすい。右足の動きと加速が見事にシンクロして一体感があるからだ。高速道路でも大半は電気モーターだけで十分に走ってくれるのだが、追い越しなどで強い加速を求めたときにはエンジンが始動してパワー&トルクを増強。先代に比べて動力性能が落ちているという感覚はなく、あいかわらず強力だ。197PS、440NmのGLC220d 4MATICでも不満はないが、それよりもずっとスペックが上回っていて、しかも低・中速域が得意な電気モーターと中・高速域の得意なガソリン・エンジンに組み合わせによってあらゆる場面で力強い。
PHEVに限らず一般的なハイブリッドカーでも乗り慣れていくうちに、ガソリン消費を抑えることと室内を静かに保つために、なるべくエンジンを始動したくないという気持ちになっていくが、メルセデスのPHEVはインテリジェントアクセルペダルを備えていて、これ以上踏み込むとエンジンが始動するポイントが抵抗感によってわかるのが嬉しい。
EV走行でもハイブリッド走行でも静粛性は圧倒的に高い。エンジン音がしないEV走行時でも、ロードノイズや風切り音は極めて低く抑えられている。EQSなどBEV専用プラットフォーム採用のフラッグシップにも近いフィーリングだ。しかもBEVに比べるとトランスミッションがあるのに、4WDも含めたメカニカルノイズもほとんど聞こえてこない。GLC220d 4MATICを試乗したときにも静粛性の高さに感動したものだが、なるほどPHEVのEV走行を考慮して、ここまで遮音・静音に力を入れていたわけだ。



内燃機関としては完成系にあるシャシー性能

シャシー性能も文句の付けようがないほどに、乗り心地が快適で操縦安定性も高い。メルセデスといえば、ボディ剛性の高さに定評があるが、新世代のMRAIIアーキテクチャーを採用した新型GLCでは、それがさらに際だっていて、走り始めた瞬間からボディががっしりとしているのが実感できるほど。
ドライブモードをComfortにしていればサスペンションはソフトタッチで、高速域で大きな凹凸を通過したときなどはボディが揺さぶられて上下動がやや残ることもあるが、それでもタイヤの接地感がしっかりしているのはボディ剛性の高さとサスペンションの動きが適切だからだろう。
モードをSportに切り替えれば、わずかに突き上げを感じる硬さになるが、上下動の収束が早まってすっきりとした乗り心地になる。ステアリングフィールは、BMWなどに比べるとセンター付近がやや曖昧なのが、メルセデスの常だったが、GLCはほどよくシャープ。ステアリングを切り始めてノーズが動いていく感覚が分かりやすく、かといって過敏でせわしないほどではないというちょうどいいバランスだ。
高速道路を突っ走っていくと、文字通り矢のように直進していって、無駄な修正が必要なく、ロングドライブでも疲れない。エンジンを搭載したモデルとしてはシャシー性能は最高レベルに達していて、これ以上を望むならBEVしかないほどだ。

まとめ
新型GLCの出来映えが素晴らしいのはICE派の意地だけではなかった。完全なBEVシフトまでの期間は短いようでそれなりにあり、そこで重要な役割を果たすPHEVの完成度を高めるために、全体が引き上げられたのだ。