新車試乗レポート
更新日:2025.03.22 / 掲載日:2024.07.19
食わず嫌いはもったいない!BYD SEAL驚愕の加速性能【工藤貴宏】

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
BYDにとって日本での3車種目となる「シール(SEAL)」が追加されたので、試乗してきました。ちなみに「シール」といっても、意味するのはペタッと貼るステッカーのようなものではありません。英語では同じスペルでアザラシを示す意味もあるのだとか。ここだけの話、筆者も初めて知ったんですけれど(筆者はアメリカ海軍の特殊部隊かと思ったのは内緒)。
そもそも「BYDなんていうメーカーは良く知らない」という人もいるかもしれませんね。中には「聞いたことがない」とか「長澤まさみさんのCMで初めて知った」という人もいるかも。でも、それも当然でしょう。まだ日本でクルマを売るようになって1年半しかたっていないうえに、本国の中国でも1995年創立の若い会社ですから。
というわけでまずはBYDの説明からしたいと思いますが、同社は中国の会社。創業時から続く本業はバッテリーの製造で、世界有数のバッテリーメーカーであり、携帯電話(スマートフォン)用のバッテリーシェアは世界ナンバーワンと聞けば、驚く人も多いことでしょう。
自動車事業への参入(あまたある中国の自動車メーカーのひとつを吸収してはじめた)は2003年で、当初は日本車(「カローラ」や「アコード」)のコピー車を作っていたのはここだけの内緒ですが、その後は本業のバッテリー技術を生かしたハイブリッドカーやEVに着手。なんと、2023年には「世界で最もEVを売ったメーカー」となったのだから、今や世界最大手といっても過言ではないほど。本国などではエンジンを積んだPHEV(プラグインハイブリッド)も展開しますが、日本ではEV専用ブランドとし、これまでクロスオーバーSUVの「ATTO3」、そして小型SUVの「ドルフィン」をラインナップしてきました。そして3台目がこのシールというわけです。

そんなシールがどんなモデルかといえば、「『ポルシェ・タイカン』や『テスラ・モデルS』みたい」といえばわかりやすいかも。車体は全長4800mm×全幅1875mmと大きめの4ドアセダンで、とにかくハイパワーで加速自慢。高性能仕様となる4WDのモーター出力はなんと530ps。つまり街を走っている軽自動車の10倍以上のパワーですよ! ベーシックなタイプとなる後輪駆動モデルでも313psだから、軽自動車6台分以上のパワーです。伸びやかな大型セダンのプロポーションに加え、驚異的な加速性能。それがポルシェ・タイカンとかテスラ・モデルSっぽさの理由と言えるでしょう。

BYDの説明によるとシールのATTO3やドルフィンにはない特徴は「スポーティ」に加えて「セーフティ」と「コンフォート」なのだとか。でも、気になるのはやっぱり「スポーティ」さです。
速い、とにかく速い。
試乗した4WDモデルの印象はまずそれでした。530psというパワーに比べて、太いトルクが低回転から鋭く立ち上がるモーターのトルクは切れ味抜群。停止状態からとりあえずアクセルを全開にしてみたら、その様子はまるでワープを発生するマシンです。あまりの鋭い加速は身体が前へ進むのに対して脳だけが置いていかれるかのような感覚。脳震とうを起こすかと思ったほど(だからそっとアクセルを緩めた……)。ハンパないです。

最初は「そうは言ったって加速だけでしょ?」とナメてかかったら、それも違ったのだから予想外。パワートレインの制御がスムーズだから滑らかに走らせることもできるし、ハンドリング性能だって一流。峠道でのオン・ザ・レール感覚(ライントレース性)が凄くて、曲がるのも得意な超絶ハンドリングマシーンなのですから。シャープにグイグイと曲がり、旋回中だってハンドルを切ればさらに内側へと切り込んでいく余裕だってある。あたかもドイツのスポーツサルーンです。
その運動性能の高さと完成度の高さに驚きました。これ、もしもBYDじゃなくてドイツの有名ブランドのクルマだったらみんなベタ褒めでしょうね。
もちろん、後輪駆動モデルのハンドリングだって秀逸。シャープに曲がりこんでいくし、旋回後半でアクセルを踏みながら曲がりこんでいく感覚も気持ちよすぎる。曲がるフォームが美しいんですよね。4WDも後輪駆動も、こんなに運転が楽しいなんて予想外過ぎます。
そのうえで、乗り心地だっていい。硬すぎることはなく、かなり上質なのです(4WDモデルは電子制御ダンパーを搭載している)。

そのうえ後席は足元が広くて居住性が高いし、快適性だって良好。ちなみに日本仕様の運転環境は右ハンドルであることに加えて、ウインカーレバーも日本車と同じく右側に装着としっかり日本化対応しています。
インテリアの作り込みも上質だし、ダッシュボードにはBYDの特徴となっている電動で90度回転して縦と横が切り替わるセンターディスプレイも装着。残念ながら現時点の販売車両ではカラオケ機能(最新のATTO3は搭載しマイクは販売店オプション)が用意されていませんが、今後の改良で搭載されそうな気配です。

そんなシールですが、正直好みはあると思います。クルマに対する好みというか、中国のメーカーというだけで何となく避けたい…という気持ちを持つ人もいるでしょう。もちろんそれを否定する気持ちはないし、これだけたくさん日本のクルマが選べる環境であえて中国のクルマというのは、正直ハードルが高いと素直に思います。



でも、そういうイメージだけで避けていてはもったいないと思うのもまた事実。否定するのではなく「自分は買わないかもしれないけれど、出来はいいらしい」という認識は持っていてもいいんじゃないかと思ったりするのでした。
ブランドやリセールバリューは気にせず、誰も知らないような“いいクルマが欲しい”。そんな隠れ家レストランのようなツウのクルマ選びにぴったりではないでしょうか。