新車試乗レポート
更新日:2024.09.27 / 掲載日:2024.09.27
売れるクルマには理由がある【フォルクスワーゲン 改良新型T-クロス】【九島辰也】
文●九島辰也 写真●ユニット・コンパス
VWブランドの元気がない。かつては輸入車トップブランドとして君臨していて、メルセデスやBMWにその背中を見せていたが、もはやその面影はなし。特に目立ったプロモーションもなければ、マーケットとのコミュニケーション戦略も見えてこない。クルマひとつひとつはとてもいいのに残念である。
輸入車SUVでもっとも売れているVWのSUV
クルマがいいのは数字で証明できる。発売を開始した2020年から2022年までで3年連続輸入SUVカテゴリーで登録台数1位に輝いている。しかも2023年はT-Rocが1位でT-クロスが2位というから恐れ入る。ワンツーフィニッシュというわけだ。
もちろん、ここで言う「クルマがいい」は動力性能やハンドリングにフォーカスしているわけではない。見た目のかわいらしさ、乗員や荷物の積載性を含むパッケージング、ディーラーの数、価格設定など、さまざまな要因が複合的に重なり合っていることを言う。VWブランドのバリューもそうだろう。他のドイツ車ほど押し出しは強くなく、国産車以上にオシャレさがあるバランスが多くの人にウケている理由かもしれない。
とはいえ、個人的に大好きなゴルフや、本気で購入まで考えたアルテオン、それともっと裾野が広いはずのパサートワゴンはほっぽらかし。アルテオンに新世代VWの価値を押し上げるだけのポテンシャルがあっただけに惜しい気がする。
走りの完成度はピカイチ
それはともかく、今回マイナーチェンジしたT-クロスだが、仕上がりは相変わらず素晴らしかった。1リッター直3ターボのTSIと改良された7速DSGがまずは楽しい走りを提供してくれる。アクセルレスポンスの歯切れの良さ、回転数に合わせて自然にシフトアップしていくプログラミングは完全に好み。この辺のセッティングはゴルフ8にも通じる気持ちの良さ全開だ。ゴルフ8のエントリーグレードと同じ組み合わせであることのメリットがここに出ている。
さらに言うと、サスペンションのセッティングもグッド。キビキビした走りに見合ったダンパーの減衰圧ながら、細かいピッチングはなく、しなやかささえある。特に、トレーリングアーム式のリアサスペンションは秀逸で、これだけ部品点数が少なくシンプルな作りであっても、快適な乗り心地を作り上げているのだから立派だ。世界で一番良くできたトレーリングアームだと思う。
それじゃ乗り心地は最高かというと、もっと試したいグレードが他にある。それはエントリーグレード “アクティブ”の16インチタイヤ。今回Tクロスは16、17、18インチとグレードによって選べるようになっているが、試乗車は中間グレードのスタイルにオプションの18インチを履かせたものだった。見た目優先の設定だろう。でも、冷静に考えてこのボディサイズで18インチはトゥーマッチだと思う。18インチは個人的に毎日の足にしているメルセデス・ベンツEクラスの標準サイズだからだ。当然大径の方がカッコよく見えるのはわかる。が、それだけバネ下は重くなるし、乗り心地の美味しいところがスポイルされる。それにリプレイスタイヤを購入する時も割高だ。
なので、もし試乗車に16インチがあれば次回それを試してみたい。他メーカーで同じリクエストをして乗せてもらったことがあるが、まるで雲の絨毯のような乗り味に変わっていたことがあった。つまり、それほどタイヤサイズは重要なのだ。
ちなみに、このクルマのスリーサイズで気になる点がひとつだけある。それは1580mmの全高。1550mm制限の多い都内の機械式駐車場で、これまで駐車できず悔しい思いをしたSUVユーザーは山のようにいるだろう。ただ、たった30mmだからここでは言及しないが、いろいろやり方はありそうな気がしなくもない。
装備の面に目を移すと、IQ.LIGHTが今回の目玉にも思える。“アクティブ”以外に標準装備されるそれは、いわゆるマトリクスLEDヘッドライトとしての働きをする。対向車への自動防眩を素早く対応してくれるのだ。そもそもアウディの上級車にしかなかった装備だけに、T-クロスにまで波及してきたのは嬉しい。
オススメのグレードは「スタイル」
と言うことで、新型T-クロスは「アクティブ」、「スタイル」、「Rライン」の3つのグレードでスタートした。カラーもポップな3色が加わり全8色から選べる。赤だけ有償なのが気になるけど。オススメは中間の「スタイル」かな。17インチでカッコよく乗り回してください。