新車試乗レポート
更新日:2024.10.31 / 掲載日:2024.10.31

クワトロのDNAは受け継がれた【アウディ A5/S5】【石井昌道】

文●石井昌道 写真●アウディ

 ここのところ新型車が少なかったアウディだが、2024年からは新世代のモデルが続々と登場する。

 車名に関しても変更があり、BEV(電気自動車)には偶数の数字、エンジン搭載車には奇数の数字が使われる。すでに本国で発表されているQ6 e-tronはPPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)というポルシェと共同開発した電気自動車専用プラットフォームのアウディとしての初出。そして、今回試乗した新型アウディA5/S5は従来のA4/S4の後継にあたり、エンジン搭載車のため車名の数字が奇数になった。

エンジン搭載車として開発されたA5/S5

 プラットフォームはPPC(プレミアム・プラットフォーム・コンバッション)でエンジン搭載車用に新開発。電動化に積極的に取り組み、いち早くBEV専売ブランドへ向かうのかと思いきや、エンジン搭載車に関しても用意を怠っていなかったのだ。

 ボディはセダンとAvant(ステーションワゴン)の2種類が用意される。どちらも全長は4829mmで従来型A4に比べると67mm伸び、全幅も15mm拡がって1860mmと明らかに大きくなった。一般的にDセグメントは全長4800mm程度とされるのでそれをわずかに超えていて、アウディもアッパーミッドサイズと謳っている。

A5セダン

 従来型セダンはオーソドックスなスタイルだったが、新型A5セダンはクーペ風の流麗なスタイル。従来型A5が2ドアクーペおよび4ドアスポーツバックなので融合したと言える。リアウインドウとともに開くリアハッチは開口部が大きく、一般的なセダンよりもラゲージルームへアクセスしやすいという機能性も合わせ持つ。AvantもDピラーの傾斜が鋭くてスポーティ。大きめのタイヤ&ホイールを覆うブリスター状のフェンダーがアスリートのように筋肉質でダイナミックなのはアウディデザインのDNAだろう。

ドライバー眼前に広がるデジタルメディア

A5セダン

 インテリアはデジタライズが大幅に進化したことをうかがわせる。ドライバー眼前の11.9インチのディスプレイ(アウディバーチャルコクピット)とセンターの14.5インチのディスプレイ(MMIタッチディスプレイ)は一枚のパネルとしてまとめられていて、アウディMMIパノラマディスプレイと呼ばれる。パッセンジャーに近い側はドライバーが見やすいように湾曲。オプションで10.9インチのMMI助手席ディスプレイも用意され、これを装備すればダッシュボード全体がディスプレイだ。有機ELで発色がよく、タッチ操作のレスポンスもいい。これらは新しい電子アーキテクチャーによって実現している。

試乗会の主役はディーゼルエンジン搭載モデルだった

A5セダン

 試乗車はガソリン3.0L V6TFSIのS5(クワトロ)、ディーゼル2.0LのA5 2.0TDI(クワトロ)、ガソリン2.0LのA5 2.0TFSI は110kW(PS)のFFと150kWのクワトロの2種類が用意されていた。

 最近は欧州メーカーの試乗会でディーゼルが用意されていることが少なかった。2015年のディーゼルゲートの悪しきイメージを引きずらないこと、需要はBEVなどバッテリーリッチな電動車へ移行するためディーゼルの未来は明るくないから、などが理由だと思われるが、A5/S5の試乗会では主役といってもいい存在だった。

 個人的にも、BEVは様々な可能性があって長期的には伸びていくだろうが、現在そして短・中期的ぐらいのスコープではディーゼルもまだまだ有望なソリューションだと思っている。ただし、厳しさを増す排ガス規制に対応するためにはコストがかかるのに加えて、レスポンスが悪くなる傾向なのでドライバビリティの確保が難しいのが課題だとは認識している。

 ところが、新型A5の2.0TDIを走らせてみると期待以上の出来映えで嬉しくなった。

 アイドリング+αぐらいの低回転域から力強く、アクセルを軽く踏み込んでいくだけで豊かなトルクが泉のように湧き出てきてドライバーが望んだ通りに加速させていく。最大トルクは400Nmで1750―3250rpmと低回転から幅広い領域でトルクが充実しているから高速巡航は快適そのもので、航続距離も長いからロングドライブでは最強というディーゼルの美点をたっぷりと堪能できた。EA288evoと呼ばれるエンジンは基本的にキャリーオーバーだが、目玉の新技術であるMHEV plusが、排ガス規制対応とドライバビリティ向上を両立させる要だ。

 アウディがこれまで採用してきた48V電源のMHEV(マイルドハイブリッド)は、ベルト駆動のスターター・ジェネレーターで燃費改善や駆動アシストなどに一定の効果はあったが、MHEV plusはそれを大幅に向上させてきたのだ。

 ベルト駆動のスターター・ジェネレーターはそのままに、新たにPTG(パワートレーン・ジェネレーター)を追加。トランスミッション後端に配置されたモーターは駆動側の最高出力が18kW、回生側は25kW。出力シャフトに直接取り付けられているため、エンジン停止時のEV走行が可能、回生時にはトランスミッションのフリクションがない、FFと4WDの両方で採用可能などといったメリットがある。

 さらに、バッテリーはアウディとして初めてFLP(リン酸鉄)を使い容量は1.7kWhと、一般的なストロングハイブリッドのそれよりも大きい。MHEVとしてはかなりストロングなのだ。強力なモーターで駆動アシストすることでドライバビリティを改善し、回生も積極的に行う。バッテリーの容量が大きいからアシストも強く長く行えるという考え方だ。

 低負荷であればEV走行も可能。もちろん燃費改善効果も進化していて、2.0TDIで最大0.38L/100km、V6 3.0TFSIで最大0.74L/100kmの削減が可能となっている(WLTPモード)。

S5セダン

 S5は3.0L V6 TFSIに新たにVTG(可変ジオメトリーターボ)を採用してきた。ディーゼルでは一般的だがガソリンでは珍しいVTGは、コストはかかるもののレスポンスと効率を大幅に向上させる。ちなみにガソリンで初採用したのはポルシェで917ボクスター/ケイマンをダウンサイジングターボ化したときに投入した。

 VTGとMHEV plusを備えたS5のパワートレーンは、ドライバビリティやパワー感、官能性ともに文句なし! アクセル操作に対して俊敏に反応して高回転まで勢いよく回っていく。

 今回はフランス・ニースのワインディングロードを走ったのだが、ここ映画007の舞台にもなったところで、岩のトンネルを始めとして景観が美しい。大小様々なコーナー、激しいアップダウンなど、じつに走りがいがある道だ。

 ただし、道幅が狭いので最初は慎重に走らせていたのだが、ハンドリングの正確性が極めて高いのですぐに自信を持って攻め込んでいけるようになった。ステアリング周りの剛性感やインフォメーションは従来に比べると格段に上がっていて、路面とタイヤのグリップ状況が手に取るようにわかりやすく、正確にコントロールできる。

 ここはPPCの最大の特徴と言っても過言ではなく、ステアリングシステムをボディに直接取り付け、トーションバーの剛性を大幅に向上させるなどして、ダイレクトなフィーリングを狙ったのだという。

 S5はさらにトルクベクタリング機能やスポーティなクワトロの制御などで、タイトコーナーなどでもじつに良く曲がり、ニュートラルステアに近いような感覚が味わえた。

 険しいワインディングロードで367PSのS5の後に150PSでMHEV plus もない2.0TFSI(FF)に乗り換えるとさすがにパワーは物足りなかったが、車両重量の違いゆえかヒラヒラと舞うような軽快な走りが印象的だった。今回はスピード、負荷ともに高い領域で走らせたが、日本の一般的な走行環境だったら案外とちょうどいいかもしれない。

「アウディ+エンジン」の今後に期待

S5アバント

 それにしてもアウディがエンジン搭載車にも真摯に取り組んでいることが知れたのは嬉しい発見だった。エンジン縦置きのFWDベースの4WDという駆動構造は、路面が悪くても操縦安定性が高く、直進性で他の追従を許さない最強の乗用車。アウディ・クワトロのDNAが末永く生き残っていくことに期待しているのだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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