新車試乗レポート
更新日:2024.11.03 / 掲載日:2024.11.02
風とエンジンサウンドを感じる官能空間【マセラティ グランカブリオ】【九島辰也】
文●九島辰也 写真●マセラティ
ジョバンニ・ミケロッティという名前を久しぶりに耳にしました。20世紀に活躍したイタリア人のカーデザイナーです。プレゼンテーションでその名を口にしたのはマセラティジャパンの山本さん。新型グランカブリオの系譜を語る中での話です。
それによると今日のグランカブリオの始祖となるのは1959年のジュネーブモーターショーで発表されたマセラティ3500GTのコンバーチブルモデル“スパイダー・ヴィニャーレ”だそうです。そこから彼らのオープンモータリングが始まりました。ヴィニャーレは当時トリノにあったカロッツェリア。オープンカーのような特殊なモデルをデザインしていました。
そしてそれを進化させたのがミストラル・スパイダーで、デザインを手がけたのはジョバンニ・ミケロッティとなります。大物デザイナーですよね。トライアンフやBMWで腕を振るいました。
なぜ個人的にそこにこだわるかというと、彼の手がけたクルマを長年所有していたからです。トライアンフ・スピットファイアがそれで、かなりかっこいいデザインをしていました。ロングノーズ&ショートデッキのボディは薄く、絵に描いたようなスポーツカーです。膨らんだリアフェンダーもそう。セクシーなラインは彼の得意技かもしれません。ミストラル・スパイダーも同じ。というか、この2台はやはり似ているので、どちらも好みです。
では話題を新型グランカブリオへ移しましょう。このクルマは今年2月に発表されました。クーペボディのグラントゥーリズモをベースにした4シーターのオープンエアモデルです。幌はファブリック製のソフトトップで、5色のカラーバリエーションから選べます。開閉時間は約14秒。時速50キロ以下であれば走行中も開閉可能です。今回の試乗会ではそれも試しましたが、問題はありません。剛性はしっかりしています。この部分のパーツメーカーとなるサプライヤーは世界でも絞られますから、逆に信頼性があります。「イタリア車だから幌が動かなくなったり、破けやすかったりしない?」なんてのは愚問。同じサプライヤーの商品をドイツメーカーも使っていたりします。
操作方法は、センターモニターの“Cabrio(カブリオ)”を指先でタッチすると、画面に大きくクルマのイラストが浮かび出します。でもって、指の腹で矢印を右になぞると屋根が開き出し、左に滑らすと閉じる仕組みです。途中で指を離すと開閉動作が止まってしまうので、そこは気をつけた方がいいでしょう。しっかり完了の音が鳴るまで指をモニターに当てていることをおすすめします。
オープン時の風対策にはウインドディフレクターが対応します。これはリアシートをつぶして取り付けるボードのようなもので、後方からの風の巻き込みを軽減します。これがないと、長い髪は下から上へ宙に舞うように吹き上げられます。あると無いとでは大違い。今回はそれが標準装備となり、専用バッグでトランクにしまわれました。これはマセラティジャパンからの要望だそうですが、共感します。そもそもオープンカーは優雅な乗り物で、キャビンで風と格闘するものではありません。リアシート2座が潰れても優雅さは死守しましょう。防寒はエアコンとシートヒーター、それとネックウォーマーが引き受けます。この3点セットがあれば大丈夫。北海道や東北はわかりませんが、関東以西は事足りるはずです。
といった装備を持つグランカブリオですが、その醍醐味はやはりオープンにしたときのエキゾーストサウンドを直接的に感じられることでしょう。マセラティが得意とする官能的な音を間近で聴けます。キャビンはリスリングルームの特等席です。
そしてその音と共に楽しめるハンドリングには言うことがありません。マセラティ然とした軽快なフットワークはこのクルマにも注入されていました。オープントップによる補強で、クーペ+120キロ増と聞きましたが、それはまったく感じません。さすがです。
そんなことを考えながら、箱根の山間を気持ちよくグランカブリオで走りました。山の上の方は霧が濃かったですが、まだまだオープンで走れる気候です。もう晩秋なのに。地球温暖化による変化はこんなところでも感じちゃいます。