新車試乗レポート
更新日:2024.12.03 / 掲載日:2024.12.03
アルピーヌ A290は家族で乗れる極上のハンドリングEVだ!【工藤貴宏】

文●工藤貴宏 写真●Yannick Brossard / DPPI、アルピーヌ
アルピーヌってなに?
もしかすると日本にはそういう人も多いかもしれませんね。それは言い換えれば、「知る人ぞ知る」ツウのためのブランド。ルノー傘下にあるフランスのスポーツカーブランドです。
F1と世界耐久選手権に参戦するフランスのスポーツカーブランド

レースに詳しい人であれば「F1にもWEC(世界耐久選手権でその戦いのひとつにル・マン24時間がある)にも出ているよね」とその名前に聞き覚えがあるかもしれません。
なにを隠そう、世界の自動車メーカーやスポーツカーブランドのなかでもF1とWEC(の最上位クラス)に出場しているブランドはアルピーヌだけ。その意味が理解できる人なら「アルピーヌってすごいじゃん!」となるんじゃないでしょうか。いや、すでになっているはずです。
実は日本でも、(知る人ぞ知るブランドながら)アルピーヌの人気が凄い。いま日本で買えるアルピーヌの新車は2シーターミッドシップスポーツカーの「A110」だけですが、なんと日本市場における販売状況は世界第3位を争っている状態。トップは本国フランス、2位はドイツ、そして3位のポジションを日本とイギリスが争っているのです。失礼ながら、意外にも(⁉)日本にはアルピーヌ好きがたくさんいるというわけ。日本は世界的に見ても「ツウなクルマ好き」が多い国ですからね。
余談ですが、日本には「メガーヌR.S.」とか「ルーテシアR.S.」などルノーの「ルノー・スポール(R.S.)シリーズ」もたくさん走っています。何を隠そうそれらを手掛けたのもいまのアルピーヌと同じ組織。実は日本には、彼らの作り出すクルマを理解し、愛するファンがたくさんいるのです。
「A290」はファミリーユースOKの5ドア・5人乗り

「アルピーヌっていいのかもしれないけど、2シーターのスポーツカーしかないんじゃあちょっとね。」
ここまで読んで、そう思いはじめている人もきっとたくさんいることでしょう。2シータースポーツカーって、実用性は低いけれど買うハードルは高いですからね。
でも、安心してください。
ついに、アルピーヌから2番目のモデルが(本国で)デビューしました。その名は「A290」。今度はなんと、5人乗りのハッチバックです。これならファミリーだって大丈夫。EVなので、それはそれで購入のハードルを上げている気はしますが、とりあえずそこは忘れましょう。
今回は日本発売に先駆け、欧州でそんなアルピーヌA290の現地仕様に試乗してきました。
車体サイズは全長3990mm×全幅1820mm。つまり“ホンダ・フィット並みに全長は短く、全幅は日産スカイライン並みにワイド”。どうしてそんなに幅が広いかといえば、「ルノー5(サンク)」というルノーのコンパクトカーをベースに、オーバーフェンダーでトレッドを広げているからです(トレッド拡大はコーナリング性能向上のため)。「ホットハッチ」と呼ばれる、ハッチバックをベースに高性能化した仕様を感じさせるいかにもなオーラが漂っているのがなんとも嬉しい。いい佇まいです。

ちなみに足元はスポーツモデルらしくイタリアの名門ブレーキメーカー「Brembo」社製のキャリパーを標準採用していますが、「このクラスでは2ピースが一般的だけど、A290はこのクラスでは珍しい1ピース構造の高性能仕様。ブレーキの剛性が全然違うよ!」と開発者はうれしそうに自慢してくれました。そういうこだわりがアルピーヌらしいですね。

インテリアはタブレット端末のような液晶ディスプレイで今どきのデジタル感あふれる感覚と、A110譲りのレーシングカーっぽいボタン式のシフトセレクトスイッチを組み合わせた空間。新しさ感じるんだけどやりすぎていない印象で、そのバランス感が絶妙ですね。
インフォテイメントシステムには自分の走りを理想の走りと比較し、アドバイスをくれるコーチング機能がついているのも今っぽいところ。筆者はどちらかというとファミコン世代なのですが、ゲームの「グランツーリスモ」で育った世代にはこういうのはけっこう響くみたいです。何が言いたいかという、ストイックで体育会系のような「R.S.シリーズ」に比べるとデジタルデバイスを組み込むことで、若い人たちもたくさん取り込んでいこうという狙いがひしひしと伝わってきたということ。こういう変更が、もしかすると新世代アルピーヌとしての、ルノー・スポール時代からの大きな違いなのかもしれないなと思いました。
そういう意味では、シートも強靭なホールド性を特徴としたルノー・スポールの新しめのモデルに比べると、A290はサポート性が高いながらもバランスよくゆったり感もあり、ターゲットの変化を感じさせます。
EVであることを忘れる気持ちいい走り

さて、肝心の走りはどうか?
まず言いたいのは「ひとまずEVということは忘れよう」です。
EVというと「走りが滑らか」とか「加速が力強い」、さらに「快適」なんて言われることが一般的には多いし、それは事実。A290でもそういう「EVらしさ」はしっかりあります。
でも、それ以上に感じたのは「軽快で気持ちがいい」ってこと。カーブに入ってハンドルを切り始めたときの“スッ”と曲がりはじめる動きがとっても爽快で、そこから旋回時のライントレース性がとにかくニュートラル。コーナリングラインが外側に張り出さないのは当然として、だからといってグイグイと曲がっていくガツガツした感じ(R.S.シリーズはそうだった)ではなく、スムーズに滑らかに曲がる感じが実に好印象。こんなに曲がるのが気持ちいいと感じたEVははじめてかも。
重いバッテリーを支えるために足回りを硬めにすることが多いEVとしては珍しく、しなやかに足が動く感覚の、なんとも心地いいんです。
前輪駆動のハッチバックとはいえ、重いエンジンが車両前部になくミッドシップに近い前後重量配分、そしてバッテリーを車体中央の床下に積んだことによる低重心化も効いているのでしょう。また、欧州仕様では車両重量が1.5トンを切るなどEVとしては異例の軽さも効いているに違いありません。
このニュートラルステア感はA290の醍醐味。タイトターンもキレイに回ってくれるから、峠道が楽しすぎます。サーキットも走ってみましたが、そこでも破綻のないハンドリングはさすがアルピーヌの仕事という感じでしたね。

試乗車は「GTS」グレードでモーター最高出力は220㎰。最大トルクは300Nm。R.S.シリーズでほぼ同じボディサイズだった「ルーテシアR.S.」の最終世代(の高性能仕様)と比べると最高出力は同じで、トルクは2割弱増しといったところ。だから速さは相当なものです。
ただ、味付け自体は一時期の高出力EVでよくあったアクセルを踏み込むと「ガツン!」と背中を蹴られたかのように前へ押し出されるタイプではなく、加速感はとんでもなく刺激的とか、とんでもなくシャープというわけではありません。
ただ、それもアルピーヌの狙い。アクセル操作に応じてリニアに加速する“自然な感覚”と“伸び感”を狙っているのです。そういう味付けが、EV感を感じさせずガソリン車の延長線上にあるスポーツモデルのような乗り味としているんだなと実感しました。

そんなA290 のキャラクターは、スポーツシューズを履いて本気でスポーツするというよりは、スニーカーで軽くジョギングするくらいの感覚。つまりR.S.時代の「サーキットこそ本拠地」とはけっこうキャラが違い、普通の速度で普通に交差点を曲がるだけで気軽に爽快感を味わえるようなクルマだと筆者は思います。(価格を除けば)R.S.シリーズよりもずっとずっと門を広く開いている。だから本気で走るのではなくスポーティな街乗り中心のクルマが欲しい、という人がしっくりくるようなクルマと言っていいでしょう。
もしくは、本気のスポーツカーを持っている人が普段使いようのスポーティなハッチバックとして買うのもいいし、かつてはスポーツカーに乗っていた人がファミリーで使うクルマとして選ぶのもいいかもしれませんね。
日本導入は2026年の前半!?

気になる日本への導入は、2026年の“はやいうち”となりそう。まだ2024年なのでずいぶん先のような気がしなくもないですが、本国でも発売はこれからで、右ハンドルの生産が2025年後半からの見込みとのことなので、貯金をしながら待ちましょうかね。
間違いないのは「アルピーヌはEVでもやっぱりハンドリングがサイコーで運転が楽しい」ってことです。それがアルピーヌというブランドの神髄ってことなのでしょう。