新車試乗レポート
更新日:2025.02.24 / 掲載日:2025.02.21

セリカと雪とユーミンと【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●池田直渡、トヨタ

 2024年から、トヨタは苗場プリンスホテルを会場にGR FOURの雪上試乗会を始めている。昨年はメディアのみを対象とした実質取材会の体だったのだが、2025年からそれを拡大。「SNOW DRIVE 2025」と銘打って、「松任谷由実 SURF&SNOW in Naeba Vol.45」とコラボレーション。これによって、なんと45周年を迎えた松任谷由実(ユーミン)の苗場ライブに加え、ウィンタースポーツもGR FOURもと、苗場を訪れた人々が、盛りだくさんに楽しめるイベントとなった。

「GRーFOUR」はWRCで培ったノウハウを投入したスポーツ指向の4WDシステム。GRヤリスとGRカローラに搭載される

 ちょっと要素が多過ぎて、整理しながら説明していかなくてはならない。ユーミンのライブ(もちろん有料)とスキー&スノーボード(リフト券、ギアとウエアなどのレンタルは有料)は別として、クルマ系のイベントは全て無料で、大きく4つのパートに分かれている。

 ゲレンデで行われる、全日本ラリードライバー勝田範彦選手がドライブするGRヤリスのラリーカーによる「Snow Drive Demo run(雪上デモラン)」(無料)。

 特設圧雪クローズドコースで行われる、GRヤリスの同乗、もしくは試乗走行体験「SNOW DRIVE Experience(試乗・同乗体験)」(無料)、ゲレンデで行われるLAND CRUISER GR SPORT・HILUX GR SPORTの同乗体験「SNOW TAXI」(無料)、そしてホテルロビーでは、「Snow Drive Exhibition(車両展示)」(無料)と題して、松任谷由実SURF&SNOW in Naeba Vol.45とのコラボレーション展示として、映画『私をスキーに連れてって』で一躍大人気となったST165型セリカGT-FOURや、ユーミンのツアーのキービジュアルでラッピングされたGRヤリスが展示された。

 詳細は専用ページで確認できる

雪上試乗では4WDシステムの評価に加えて比較的安全に限界領域での挙動を確認することができる

 雪国にお住まいの方は楽しいどころではないかも知れないが、首都圏住まいだと、普段の生活で完全な雪上路を走る機会などほぼないに等しい。稀に積雪があっても、路側には雪があっても路面はすっかりただのウェット。かなり条件が良くても轍部分はすでにシャーベット状態という程度。

 幸いなことに職業柄、年に2、3回雪上ドライブを体験する機会があるが、やっぱりちょっとワクワクするものだ。場合によっては、わざわざプライベートで豪雪地帯を探して奥只見や出羽三山あたりまでのこのこ出かけて行くこともある。

 なので、雪道ドライブが色々なエンターテインメントとパッケージで楽しめてしまう今回のコラボは極めて高評価できる。1カ所でこれだけ盛りだくさんに詰まった冬の遊びが満喫できるのは素晴らしい。

 そして、今年もGRカローラには年次改良がしっかり加わっている。空力改善のためのバンパー形状変更が改められたほか、ボルト周りも締結力を向上させるために、フランジ部にリブを立てたり、肉厚にしたりワッシャの厚さを増したりと、細かくマニアックな改良がされている。レースやラリーで毎戦加えられる改良がすぐに市販車にフィードバックされ、走りのレベルが上がって行く。しかも、所有車が前年までのモデルであっても。有償でならほとんど全てのアップデートパーツが、レトロフィット的に更新可能だ。「OTAで性能のアップデート」を謳うメーカーはあるが、本来ソフトはハードと両輪の関係にある。当然ソフトもハードもアップデートできた方が良いに決まっているが、本当にそんなことをやってみせるのはトヨタだけである。

 ユーミンのライブも楽しかった。実は筆者は多分40年くらい前のツアーを見に、神奈川県民ホールに行ったことがある。いや、GRとユーミンのコラボを取材する仕事なので、完全に役得なのだが、取材でこんな素敵なものを見せてもらってなんだか申し訳ない。

 さて、せっかくなのでちょっとトヨタが何をやっているのか考察してみたい。GRヤリスとGRカローラはそもそもが大衆車にハイパワーユニットを搭載し、その強大な力を路面に伝えるためにAWDシステムを採用したクルマ。当然雪上での走破性も優れている。ただ、雪上というその一点でユーミンとコラボするかと言われれば、ちょっと弱い気がするのだ。

映画『私をスキーに連れてって』劇中で活躍したST165型セリカGT-FOURは、今でもファンの語り草となっている。デモランのドライバーは勝田範彦選手で助手席で手を振るのはGRカンパニーの高橋智也プレジデント。ちなみにこの車両、あの映画のマニアが劇中での状態を完全再現したもの。車両はもちろんスキーやキャリアまで劇中のアイテムで統一されているのだとか

 そう、そこをつなぐのがセリカの役目である。すでに佐藤社長も中島副社長も、セリカ復活を何度か匂わせている。『私をスキーに連れてって』で活躍したST165はおそらくかつての若者に最も印象強く残った「雪上を走る1台」であるはずで、新型セリカのプロモーションに使うにはもってこいだ。

 そもそもGRヤリスがすでに500万円のクルマ。スペシャリティカーであるセリカになればどんなに安くても600万円台後半、高ければ700万円台後半くらいになると思う。それは若者には買えない。

 高価な2ドアクーペを買ってもらうとすれば、子育てが終わった五十代から六十代がメインターゲットになってくる。そしてそこにリーチするには、ユーミンとこの映画はまさに打ってつけだと思う。

 ということで大胆な読みをするならば、来年のこのイベントにはもしやセリカが出てきているのではないだろうか。つまり「SNOW DRIVE 2025」はその来年に向けた壮大な仕込みだと筆者は想像している。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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