新車試乗レポート
更新日:2025.02.27 / 掲載日:2025.02.27
いまこそSUVの最高峰を日本に!【日産 パトロール】【工藤貴宏】

文●工藤貴宏 写真●日産
日本から2回の乗り換えを経て約20時間。筆者が出かけたのは、2019年まで「観光目的での入国不可」と“半鎖国状態”だった中東のサウジアラビアです。いったい何をしに行ったのかって? 昨年秋に14年ぶりにフルモデルチェンジして7世代目に進化した「日産パトロール」に試乗するためですよ。
かつてのサファリが高級SUVとして成長

……といっても「パトロールってなに?」という人も多いでしょうね。日本名「サファリ」といえばピンと来る人もいるでしょうか。かつてはサファリとして日本で販売していた、日産のフラッグシップSUVです。2007年の日本販売終了後も海外では進化を重ね販売を継続中。そんなサファリ(海外名「パトロール」)が14年ぶりに車体設計まで刷新のフルモデルチェンジで新型になったと聞き、乗りに出かけたというわけで。
参考までにパトロールの最大のマーケットはサウジアラビアを含めた中東地域。さらにオーストラリアやフィリピン、そして北米では「日産アルマーダ」として販売されます。
まずそんな新型パトロールの概要をお伝えしておきましょう。メカニズムはいわゆる“本格ヨンク”と呼べるもので、「トヨタ・ランドクルーザー」などと同じく車体はラダーフレーム構造で、そこへV6エンジンを縦置きに積んだ4WDシステムを組み合わせています。4WDは後輪をメインに電子制御多板クラッチを介して状況にあわせて前輪へ駆動力を配分する仕組み。つまりはGT-Rのウリのひとつである「アテーサE-TS」のSUV向け発展版というわけですね。オフローダーだけに前後直結モードやそのローギヤ、さらにはリヤデフロックなども組み合わせたもので、軟弱なSUVとは違うのです。
それにしてもこの新型パトロール、第一印象からしてタダモノではない雰囲気がプンプン。モダンなデザインもポイントのひとつですが、そもそも車体が大きいから迫力が凄い。

サイズは全長5350mm×全幅2030mmで、これはライバルと思われがちな「ランクル(ランドクルーザー)300」の全長4985mm、全幅1980mmと比べるとひとまわり大きい堂々としたものです。ランクル300よりも大きいって、ただ事じゃないですよね。実はこれは「シボレー・タホ」や「フォード・エクスペディション」といったアメリカのフルサイズSUVサイズで、トヨタでいえばランクル300よりも一回り大きな「セコイア」と同等。実はランクル300よりもひとつ上のポジションなのでした。
豪華さに圧倒されるインテリア

ランクルとの違いといえばインテリアもけっこう違う。試乗車は最上級グレードだったこともあり、ドアを開けた瞬間にラグジュアリーな仕立てに圧倒されるのは決して嘘じゃない。シートやドアトリムはもちろん、ダッシュボードまで上質なレザーでおおわれたプレミアムな空間はランクル300というよりむしろ「レクサスLX」のレベル。ダッシュボードの設計思想もあくまで「オフローダーとして機能性と堂々とした雰囲気を重視」といったランクル300に対して、大きな横長ディスプレイ(14.3インチ)がふたつ並ぶ先進的な印象でずっとモダンな感覚です。そのディスプレイには、カメラで映す車両前方の様子を大きく表示できるようになっていたりと、独自のアイデアが盛り込まれているのも面白かったりして。
面白いといえば、エアコンは赤外線センサーで乗員の体温を検知して効きを自動調整するなど先進的なもの。こういうテクノロジーをサラッと採用するのもさすが日産のSUVフラッグシップだなあと納得です。



いっぽうメカニズムも見どころがいっぱい。車体の背骨となるラダーフレームから新設計となり、2タイプあるエンジンのうち“高性能仕様”も新型パトロールへ搭載するために新たに開発されたときけば、このクルマへの気合いの入り方が伝わってくるってもの。日産としては超久しぶり(初代「シーマ」以来?)のエアサスだって用意している。つまり、フラッグシップSUVとしてとても贅沢に作られているというわけです。
エンジンは2タイプあり、どちらもV型6気筒。ひとつは排気量3.8Lの自然吸気で、こちらは先代モデルから引き継いだものです。完全新開発されたもうひとつは排気量3.5Lのターボで、なんと最高出力425馬力。最大トルクは怒涛の700Nm。VR35DDTTと呼ばれるこのエンジンは、「フェアレディZ」や「スカイライン400R」に積むVR30DDTTの排気量アップ版と考えればいいでしょう(エンジンブロックは新設計)。何が言いたいかというと、単にハイパワーでハイトルクだけでなく、躍動感があってフィーリングもスポーティだということです。興味深くないですか?
本格クロカンでありながら高級車に匹敵する乗り心地

そんな新型パトロールに乗ってまず感じたのは、オンロードでの乗り心地と運転感覚。一般的に、ラダーフレーム構造のモデルは路面からの突き上げ感が気になったり、操縦性においてクルマとドライバーの一体感を感じられない感覚があったりするものです。が、新型パトロールはそういう感覚が非常に薄い。乗り心地も運転感覚も予想のはるか上のレベルで、本当にラダーフレームの車体構造なのか疑いそうになったのはここだけの内緒。そんなわけないんですけど。そんな第一印象は、新型サファリがラグジュアリーカーとして十分に通用する乗り味だと言い換えてもいいでしょう。
それでいてオフロードに持ち込めば、人が歩けないような足場の悪い場所やアップダウンも難なくこなす高い悪路走破性はさすが。本格オフローダーだけにそのあたりの性能は当然といえば当然ですが、エアサス装着車は悪路走行時に車高調整(上下方向合わせて120mm)で最低地上高を高くできるのもポイント。またガチでオフロードを走る人のためには、下部の張り出しを抑えた形状でアプローチアングルを拡大する「オフロードバンパー」が選べるのも開発陣のこだわりを感じさせますね。

そして中東といえば、砂漠ですよ。みなさん砂漠を走るって想像できますか?
一般的にガチのオフロードは基本的にはアクセルを大きく踏み込まずゆっくりゆっくり走るのが基本。ところが砂漠はそうじゃない。アクセルを踏み込み気味で走るんです。
特に登り坂は空転が増えて車速が落ち、しまいにはスタックする可能性があるので手前でアクセルを大きく踏み込んで勢いを十分につけて登り始めないといけない。そういう時はエンジンパワーとトルクがものをいうのです。
さらにサウジアラビアの砂漠だと急に尖った石が現れて、タイヤバーストを避けるために緊急回避的にそれを避けなければならない状況も多々あったりして。パトロールの凄さはそんなときの俊敏性とコントロール性。アクセルを一瞬緩めてハンドルを切ればドライバーの思い通りにスッと曲がってくれる感覚が見事なのです。それにはビックリ。さらに曲がりながらアクセルを踏み込んでいけばドリフト状態を楽しめるのですが、そのコントロール性が凄くいい。ドリフト時に、もう少し頭を内側へ向けたい(ドリフトの角度をつけたい)と思ったときなどアクセルコントロールに忠実に反応して思い通りにクルマが動くあたりは、日産の走りの血がしっかり流れているなと感動です。正直なところ、砂漠でそんなハンドリングのよさ感じられるなんて予想していなかったのはここだけの内緒ですが。

でも実は、新型パトロールでもっとも驚いたのは舗装路でのハイアベレージの走り。日本の高速道路の制限速度を大きく超えるような状況でも、スタビリティの高さが凄いんです。そんな領域での車体の挙動の落ち着きと安定が大きくて重くて重心も高くて、しかも一般的にオンロード走行での操縦安定性は得意ではないラダーフレーム車の超高速走行とはまったく思えないレベル。それが新型パトロールを実際に運転してもっとも驚いたことでした。
現地で聞いたところ、中東のハイパワーSUV乗りのなかには砂漠の中を走る公道(舗装路)を超高速で移動する人もけっこういるんだとか。新型パトロールはそういう人も満足させる走行性能というわけです。
オフロード走破性も抜群だし、オンロードでも高い操縦安定性。その高次元での両立が新型パトロールのいちばん凄い部分といっていいでしょう。オフロード、砂漠、そして超高速領域まで含めたオンロードといろんなステージを走り、それがよくわかりました。
それがしっかりわかっただけで、はるばるサウジアラビアまで出かけた甲斐があったってものです。
日本での発売は「現時点で予定はない」とはいうが……

ところで気になるのは、そんな新型パトロールというかサファリは、日本に入ってくるのか?ということ。日産によると「現時点で予定はない」とのことですが、オーストラリア向けなど右ハンドル仕様もあるし、作っているのは日本の九州工場。そう考えると日本導入のハードルはそう高いわけではない……かも。
もちろん日本で売るとしても気軽に手の届く価格にはならないし(1000万円級か?)、たくさん数が出るというクルマではありません。とはいえ、今だからこそ、日産ファンを作るフラッグシップとしてこういう存在が日本にも必要ではないでしょうか。サウジアラビアの砂漠の中をドライブしながら、そんなことを思ったのでした。
ところでどうでもいい話ですが、砂漠には野生のラクダがいるって知ってました?