新車試乗レポート
更新日:2025.04.14 / 掲載日:2025.04.14
これぞゴルフ! 8.5への進化は想像以上だった【竹岡 圭】

文●竹岡 圭 写真●ユニット・コンパス
「いつの時代もCセグメントのベンチマーク」と言われてきたVWゴルフ。1937年に「100km/h以上のスピードでアウトバーンを走ることができて、家族全員と荷物も載せて安全に移動できるクルマを全国民にいきわたらせたい」という政策に応えるカタチで、フェルディナント・ポルシェ博士が作ったクルマのうちのひとつ、ビートルタイプ1が作られ、累計2000万台以上の大ヒット。そこから10年後の1947年、水冷エンジンを横置きに搭載したFFモデルとして、ジウジアーロのデザインをまとい登場したのが、VWの新時代を担うゴルフなんですよね。
歴代ゴルフが目指してきたもの

その後ゴルフは「革新を人々の手に」と、進化を続けます。1983年に登場する2代目はABSを搭載。1991年の3代目はSRSエアバッグ。1997年の4代目はパワーステアリング。2003年の5代目はDSG。2008年の6代目は原点回帰。2012年7代目はMQBプラットフォーム。2019年の8代目は運転支援とデジタル化…といった具合(登場年はすべて本国)に、常に新しいものを取り入れてきました。
日本には2代目からやってきましたが「常に果敢に挑戦を続けてきた優等生」というのが、私がゴルフに持っている印象。単なる優等生ではなく、常に新しいものにチャレンジしているところが、大きなゴルフらしい特徴であり、だからこそいつの時代もみんなの憧れである反面、メカニズム的には熟成された最終型がイイなんて、揶揄されたりすることもある存在なんですよね。
想像以上に進化していた「ゴルフ8.5」

そんなゴルフが8代目の後期型、通称8.5に進化したというのが、今回のマイナーチェンジというわけです。マイナーチェンジなので、さほど大きくは…と思ったのですが、思ったよりも進化していて、正直驚きました。
誤解を恐れずに言ってしまうと、個人的には、8代目ゴルフは全体的にちょっとお上品すぎたのではないか…という、印象を持っていました。いつの時代もみんなが目指すCセグメントのベンチマークを意識するあまり、すべて良くできているのだけれど、なんとなく全体的に薄味というのが、正直な感想だったんですよね。それが今回、熟成されてしっかりゴルフらしい味が出てきたな、と言ったところ。デジタル化の時代というものは、味を出すのが難しい時代でもありますが、そこにしっかりたどり着いたんだな、というのが感じられました。
さて、一周ぐるりとご紹介しますと、デザインでいちばん目立つのはイルミネーションエンブレムですね。特に夜はお目立ち度満点です。最近イルミネーションに凝っているクルマは多いですが、エンブレムを光らせるという手法は、未だコンパクトカーにはなかったのではないでしょうか。そうした斬新さと、ライトの下のコブをひとつにするという、ゴルフ1のモチーフを織り込んでくるあたりが、実に憎いところかもしれません。ちなみにこのライト、ハイビームだと500m先まで明るく照らしてくれるそうで、LEDの進化も感じられますね。

物理スイッチが戻り使いやすくなったインテリア

インテリアでは超朗報があります! スイッチ類がある程度、物理スイッチに戻りました! ステアリング上のスイッチや、ライトのスイッチが、どうにもこうにも使いにくいと思っていたのですが、ある程度物理スイッチに戻りまして、特に運転中の手探り操作性が良くなりました。エアコンの温度調整等は、スライド式スイッチが残っちゃったのですが(笑)、だいぶ使い勝手は向上したと思います。10・25インチのデジタルメーターも、グラフィック性が向上し見やすくなりましたし、私の大好きなシートヒーターに加え、ステアリングヒーターまで標準装備になったというのも美点です。




パワートレインが1.5L直4ターボに一本化

パワートレインは、ガラリと変わりまして、これまでアクティブグレードには直3の1Lエンジンが、スタイルには直4の1.5Lエンジンが搭載されていましたが、これを直4の1.5Lのミラーサイクルエンジンに一本化。出力変更をすることで、グレード差をつけることになりました。
このエンジンは、これまでセルモーターとベルトスタータージェネレーターの2つを使っていたものを、ベルトスタータージェネレーターのみにし、低圧縮でターボラグの少ないミラーサイクル方式が採用されたものです。気筒休止機構もあり、従来は2・3番気筒の燃焼を止めていましたが、今回は1・4番気筒を休止。それに加えてカムが、2気筒用のカムプロフィールに切り替わるようになって効率も適格に上がっています。
さらに、48Vマイルドハイブリッド化されていますが、選択されているシフトゲートに合わせて、エンジン回転を調整する変動制御を積極的に取り入れ、より低回転域から最大トルクが得られるように進化。エコ・コースティング機能も持たされているということで、燃費の良さと走りの機敏さが両立されたものとなっています。
洗練され、進化を感じるドライブフィーリング

それらを統合して、実際乗ってみたフィーリングが、今回のいちばんの進化ポイントだと思います。「輸入車あるある」なんですけれど、なぜか細かい進化と言いますか、細かく手を入れたポイントは、プレスリリースに書かれていないことが多いんですよね。いわゆる見た目でわかるような、大きな変化しか載っていないので、ここに記せるような正確な情報はこの程度なのですが、乗ればすぐにわかると言えば伝わるでしょうか。
発進時のDSGのガタガタ感は、ほぼ感じられず、信号待ちのストップ&ゴーが多い街中でも実に快適。その際のアイドリングストップからの再始動の振動と音も実に小さくなりました。これならば、再始動が嫌で実はスイッチをオフしている方が多いというアイドリングストップ機構も、ストレスフリーで使っていただける気がします。
また、エンジンの特性が変わったためか、わかりやすい元気の良さが出たのもいいところ。しゃなりとしたスマートさよりも、これくらい元気が伝わってきた方が、やはりゴルフらしいと思うんですよね。さまざまな機構の進化で効率が良くなっているのだと思いますが、その効率を元気の良さという面に振ってくれているのがしっかり感じ取れました。
そのパワフルさに合わせて、足回りのチューニングは当然行われているだろうし、ボディもフロント部の形状の変更等が利いているのか、しっかり機敏にパキッと動くようになったなという感覚。自分で操っている感が伝わってくるようになったのも、ゴルフらしさが感じ取れるポイントだと思います。
進化、熟成して、またしても安心して薦められるクルマになった

やはりVWは自分で操ってこその「らしさ」だと思うので、今回の進化、いや深化なのかな? は大歓迎。熟成ってこういうことですよね。正直言うと、これまでのポヤッとした薄味からしっかりゴルフ味が出て、また安心して親友に薦められるクルマに進化していたので、やや不安を感じていたゴルフファンの皆さま、どうぞご安心を!