新車試乗レポート
更新日:2019.05.22 / 掲載日:2018.09.03

【試乗レポート ダイハツ ミラ トコット】シンプルなデザインに隠された「良品廉価」の志

文と写真●ユニット・コンパス


 「お、結構いいじゃん。」ミラ トコットとの初対面で、自然とそんな台詞が口から出た。新型車なのに、昔から知っているような肩肘張らない気軽さと、それゆえの精神的な余裕、豊かさ。太陽の下で間近にしたミラ トコットの第一印象は、写真で見ていたよりもずっと素敵なものだった。

 最近のクルマは「プレミアム」や「個性化」の大合唱。もちろんそれはそれで気分を盛り上げてくれるのだけど、なかには自己主張が激しすぎてちょっと気恥ずかしさを覚えるクルマがあるのも本当だ。クルマは暮らしを支える相棒であって、威圧的なデザインでもって隣人や道行く人々に威張りを効かせるというのはデリカシーに欠ける……という考え方も徐々に広まってきている。
 だからこそ、ミラ トコットが備えている自然体な愛らしさに、共感を覚えたのかもしれない。

価格はお手頃だが、安全装備は最新かつ充実した内容

 ミラ トコットは、愛らしいスタイルが目を引くが、その根底に流れる思想は結構骨太だ。コンセプトは、「低燃費、低価格、安全・安心」。これはダイハツ軽自動車そのものの本質として考えることでもある。

 衝突回避支援システム「スマートアシストIII」を標準装備する「L SA III」でも113万9400円という価格は、商用にも使われるミラ イース(スマアシIII付きのB SA IIIが90万7200円)と個性派であるキャスト(X SAIII 129万600円)のちょうど中間で、ダイハツのスタンダードであるムーヴ(L SA III 117万7200円)よりもわずかに低い設定。もっとも廉価な「L」(107万4600円)以外は、すべてのグレードに「スマートアシストIII」が備わっているところにも、「良品廉価」を目指すダイハツの志を感じる。

 ちなみに、「スマートアシストIII」はステレオカメラとソナーセンサーを組み合わせた衝突回避支援システムで、衝突回避支援ブレーキ機能は対車両で4~80km/hまで、対歩行者で4~50km/hまで作動。ほかにも、車線からはみ出しそうなときに作動する警報機能や誤発進抑制機能は前方だけでなく後方にも搭載されている。
 また、サイドエアバッグ&カーテンシールドエアバッグを全グレードに標準装備。これは軽自動車初とのこと。このように、安価ではあるが、安全にはしっかりと気を配っている。
 ダイハツによれば、トコットのターゲットユーザーは女性や初めてクルマを購入する若年層ということだが、それはあくまでも運転のしやすさ、自然体で付き合える愛着のわくデザインという商品特性を強調した言葉で、本来自動車というのは、すべからくそうあるべきだろう。
 クルマにとても詳しい愛好家が、日々の足としてトコットを選んだとしても、何もおかしいことはない。

「シンプル」を商品価値にまで高める

 試乗会では、デザイン担当エンジニアに話を聞くことができたのだが、その言葉からも改めて思いを強くすることとなった。

 デザイナー氏は、トコットが現在の最終デザインに至るまでの変遷をまとめたブックを持参しており、それを元にデザインがどのような意図でまとめたのかを説明してもらうことができた。
 それによれば、現在のデザインにたどり着くまでには、まさに紆余曲折があったというのだ。もっとも苦労したのが、「シンプル」であることを商品価値にまで高めること。トコットでは、華麗なメッキパーツや特徴的なグラフィック、派手なプレスラインを用いることなく、道具として愛着が持てるような、機能性と形状とが融合したデザインを追い求めたという。しかし、「シンプル」はひとつ間違えると「安いっぽい」になりかねない。実際、各部署からのツッコミも大きかったという。

デザインのヒントになったコンセプトカー

コンセプトカー「basket(バスケット)」(写真:ダイハツ)

 そこで参考としたのが、2009年の東京モーターショーで発表したコンセプトカー「basket(バスケット)」。「basket」は、オープン4シーターで荷台をピックアップトラックのようにも使えるといったユニークなコンセプトであったが、同時にスローライフをイメージさせるシンプルで飾り気のないデザインが施されていた。ジャンルは違えども、まさにトコットでやりたいことと根底では繋がっている。そして、10年近い現在見ても、「Basket」にはタイムレスな魅力があるとデザインチームに気が付いたのだとか。たしかにヘッドライトなどは「Basket」そのままだし、水平基調のベルトラインやボディサイドのプレスラインにもコンセプトカーからの影響を感じることができる。

走りはのんびり系。見切りのよさは日常の足として優秀

 走らせた印象も概ね同じで、普通に運転しやすい。エンジンは自然吸気のみで、それゆえパワフルとは言い難く、上り坂では一生懸命さを感じるが、それはほかの自然吸気エンジンを採用するモデルと同様。騒音レベルを含め、現代的な標準レベルにきちんと準じている。
 乗り心地だって十分快適だ。コスト削減のために足まわりにはスタビライザーが備わらないが、その代わりフロントダンパーにリバウンドスプリングを内蔵し、コーナーでのふらつきを抑えるようになっているため、確かにコーナーでの姿勢も安定している。走りの質感をどうこうできるレベルではないが、少なくとも試乗中に怖い思いはしなかった。

長く愛用できそうな、使いやすく安全な良心的プロダクト

 最近の軽自動車は高性能なクルマが増えてきているが、その反面に価格もどんどんと値上がりしている。もちろん、それはユーザーが望んでいるからに他ならないのだが、軽自動車本来の「だれでも所有できるマイカー」という趣旨からすると、シンプルで使いやすく、長年の愛用に耐えうるクルマがもっとあってもいいはずだ。
 事実、ダイハツが発表した初期受注の状況によれば、約9割のユーザーが「スマートアシストIII」搭載グレードを選択。メインターゲットとしていた若年女性以外にも、子離れ層やシニアなど幅広い年代から選ばれているとのこと。
 トコットは、いかにもダイハツらしい真面目な軽自動車であり、シンプルさにこだわったデザインと「良品廉価」を貫いたコンセプトが共感を集めているからだろう。

より個性的なスタイルを希望するユーザー向けに3種類の「アナザースタイルパッケージ」を用意。左から「COOLSTYLE」、「SWEETSTYLE」、「Elegantstyle」。

ダイハツ ミラ トコット G SA III(CVT)

全長×全幅×全高 3395×1475×1530mm
ホイールベース 2455mm
トレッド前/後 1305/1295mm
車両重量 720kg
エンジン 直列3気筒DOHC
総排気量 658cc
最高出力 52ps/6800rpm
最大トルク 6.1kgm/5200rpm
サスペンション前/後 ストラット/トーションビーム
ブレーキ前/後 ディスク/ドラム
タイヤ前後 155/65R14

販売価格 107万4600円~142万5600円(全グレード)




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グーネットマガジン編集部

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