新車試乗レポート
更新日:2020.01.14 / 掲載日:2019.11.21
【試乗レポート トヨタ C-HR GR SPORT】マイナーチェンジで追加のスポーツの実力
C-HR GR SPORT
文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
C-HRの走りはやっぱり楽しい。
マイナーチェンジを機にひさびさにC-HRに乗ってみたら、そんなことを再認識した。
トヨタC-HRは、高い人気を誇るコンパクトなサイズのクロスオーバーSUVだ。2016年12月にデビューし、2017年と18年には2年連続で並み居る強豪を抑えてSUVの年間販売台数ナンバーワンを獲得。大ヒットモデルとなっている。運転しやすいコンパクトなサイズや斬新なデザイン、プリウス譲りのハイブリッドの低燃費、そして走りのレベルの高さなどが選ばれる理由だ。
そんなC-HRがマイナーチェンジを実施した。内容の中心は“見える部分”で、たとえばフロントバンパーはエアインテークを左右に広げることで従来にも増してダイナミックさを強調。これまでエアインテーク下部についていたフォグランプが、左右エアインテークの上部に配置されるようになったのも新型を見分けるわかりやすいポイントだ。ヘッドライトユニットも新しいデザインとなり、「G」系と“GR SPORT”ではヘッドライト上部に細長く組み込まれたLEDクリアランスランプを、デイライトとターンランプの二つの機能を盛り込んだタイプへと変更。それらはリヤコンビランプのウインカーも左右折時に車両内側から外側へ向かって光が流れるシーケンシャルウインカーとしている。
インテリアは「カローラ」などに続いてディスプレイオーディオを全車に標準搭載。8インチ(実際にみるとけっこう大きい)のタッチパネルディスプレイが組み込まれ、スマホを接続してナビアプリを活用することで、追加でカーナビを買わなくてもナビが使えるのだからユーザーに優しい改良だ。もちろん、従来通りの車載ナビが欲しいという人にはディーラーオプションで用意している。
さらに、安全サポート面も進化。車両を上から見下ろすような画像を画面に映して安全確認ができる「パノラミックビューモニター」をはじめ、前後に壁があると発進時にエンジン出力を抑えてアクセルの踏み間違い事故などを防ぐ「パーキングサポート機能付きインテリジェントクリアランスソナー」や駐車枠からバックで動く際などに左右後方から近づくクルマを検知して衝突の可能性があるとブレーキを制御する「リヤクロストラフィックオートブレーキ」などを新設定している。また、バリエーションとしてこれまで設定がなかったマニュアルシフト(6速)を1.2Lターボエンジンと組み合わせて新設定。サスペンションに関しては大きな変更はアナウンスされていない。ただ、ショックアブソーバーのサプライヤーがザックスから日立へ変更されているという。
追加されたGR SPORTは、通常グレードとの差額わずか10万円
ところで、今回のマイナーチェンジの最大のトピックといえるのがスポーツモデル“GR SPORT”が追加されたことに尽きる。GRとはトヨタのモータースポーツ活動やスポーツカー開発をまとめる組織「Toyota Gazoo Racing」の略で、その開発部隊が手掛けたスポーツモデルが「GRシリーズ」。C-HRに追加された“GR SPORT”は「日常生活を犠牲にすることなく快適性をキープしたままスポーティなエッセンスを加える」というのが狙いだ。GRシリーズのなかでもっとも気軽にスポーティを味わえる仕様である。
通常モデルに対する変更点は、専用デザインのフロントバンパーや専用ステアリング&シート、加飾パネルといった内外装、19インチタイヤ&アルミホイール(標準車は17~18インチ)、そしてブレース(筋交い状の補強部材)により補強した車体と専用チューニングのサスペンションだ。 驚くのはその価格。“GR SPORT”はガソリン車(1.2Lターボエンジン)とハイブリッド車の両方に用意されるが、通常モデルの上級グレード「G」や「G-T」に比べてわずか10万円しか高くないのだから凄い。「より多くの人に選んでほしい」と願って努力したのだという。
控えめな価格を実現できた理由のひとつは元となるグレードを上級仕様の「G」系ではなくベーシックな「S」系としたことだが、外装におけるグレード差となるヘッドライト&テールランプは「G」系用の上級タイプを採用。機能面を見ても、オートワイパーが省かれるほか、室内のランプの数が減ったり、フロントドアガラスがスーパーUVカット&赤外線カットではない普通のガラスになる程度。実際のところシートをはじめインテリアの仕立ては“GR SPORT”用に専用となるのだからベース車両のグレードがSベースでも大きな問題ではないのだ。
また、これまでに登場した他車の“GR SPORT”はリヤバンパーも専用デザインだったが、C-HRでは標準車から変更されていない。それも買いやすい価格設定の実現に効いているのだが、そもそも標準バンパーのデザインがアグレッシブだから“GR SPORT”用フロントバンパーともマッチングも良好だ。
スポーツモデルだからといって乗り心地が悪化することはなく、むしろ良好
さて、走りはどうか?
まずはクローズドコースでスラロームやレーンチェンジを試してみた。そこで感じたのは雑味の取れたスッキリとした操縦性だ。
そもそもC-HRは走行性能にこだわって開発されたので走りの水準は高い。しかし、こうして“GR SPORT”と比べてみると、わずかながら自然ではない部分があることに気が付く。たとえば旋回が終わってハンドルを戻す際の車体のロールの揺り返しなどだ。
しかしながら“GR SPORT”は、ロールの揺り返し時などの挙動のつながりがスムーズになり、ロールの収束も抜群に自然。またステアリングフィールもハンドルを切った量による手ごたえの変化が減って、上旬車に比べるとすべて動きが滑らかになった印象を受けた。そのうえ、スポーツモデルだからといって乗り心地が悪化することはなく、むしろいいのだから完成度が高い。
エンジンをまわす楽しみがあるMTモデル、動力性能に余裕がほしいならハイブリッドがオススメ
“GR SPORT”のガソリン車はMTだけの設定だが、包み隠さず言うと1.2Lのターボエンジンは最高出力116馬力/最大トルク18.9kgmと力が十分とは言い難いスペックだ。しかし、MTでエンジンをまわしてパワーを引き出しながら乗ると、これがまた楽しいのである。ハイパワーエンジンと違って気軽にアクセルを全開にできるから、自分で操っている感が高く、充実感が高まるのだ。
そんな運転感覚はまるでローパワーの小型スポーツカーに乗るようなもの。運転好きなら楽しめないはずはないだろう。エンジンをガンガンまわしながら峠道を走ると、幸せな気分になってくる。
いっぽう、もっと余裕を持って走りたいならモーターのアシストもあって動力性能に勝るハイブリッド(こちらはMTではない)を選ぶといいだろう。
トヨタ C-HR GRスポーツ(6速MT)
全長×全幅×全高 4390×1795×1550mm
ホイールベース 2640mm
トレッド前/後 1540/1540mm
車両重量 1400kg
エンジン 直列4気筒DOHCターボ
総排気量 1196cc
最高出力 116ps/5200-5600rpm
最大トルク 18.9kgm/1500-4000rpm
サスペンション前/後 ストラット/ダブルウィッシュボーン
ブレーキ前/後 Vディスク/ディスク
タイヤ前後 225/45R19
販売価格 236万7000円~309万5000円(全グレード)