新車試乗レポート
更新日:2020.06.23 / 掲載日:2020.06.23
【試乗レポート 日産 ルークス】ライバルを徹底的に研究した仕上がりには日産の気合を感じる

日産 ルークス ハイウェイスターX プロパイロット エディション
文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
これはまるで小さなミニバンだ。
フルモデルチェンジして新型になった日産ルークスに乗ってそう思った。もちろん軽自動車だから車体は小さいし、ミニバンとちがって3列目のシートもない。でも、後席に座ったときの広々感や、充実した快適装備による便利さはミニバンに匹敵するレベルだと思った。
スーパーハイトワゴンは軽自動車のなかでもっとも競争が厳しいカテゴリー

ルークスは軽自動車でもっとも人気のあるスーパーハイトワゴンに属する
クルマの紹介に入る前に、軽自動車の現状から説明しておこう。いま、乗用車市場の4割ほどが軽自動車だ。なかでも中心となっているジャンルが「スーパーハイトワゴン」。天井の高さが1750mmを超え、後席にはスライドドアを組み合わせるのがセオリーで、軽乗用車のなかではもっとも後席が広い。
そんなスーパーハイトワゴンには3強がいる。ホンダ・Nボックス、ダイハツ・タント、そしてスズキ・スペーシアだ。とにもかくにも、新型ルークスの野望はそこへ食い込むことである。
とはいえ、競合はどれもレベルが高く、単に新型車だというだけでは勝ち目はない。どこかにユーザーの目を引く長所や特徴がなければ、高い人気を得ることができないのは明らかだろう。
そこで、ルークスの良さを理解するにはルークスがどこを磨いてきたかを知るのが手っ取り早いというわけだ。
ルークスの後席における膝まわり空間の広さはクラスNo.1

後席はスライド機構により、シーンに合わせたアレンジが可能。スライド量はクラストップの320mmを確保
まずは室内の広さ。スーパーハイトワゴンにとって室内の広さは正義である。特に後席の足元スペース(前席との間隔の広さ)が重要。なんといっても、顧客が乗り込んだ瞬間にすぐに感じられる部分だからだ。
結論からいえば、新型ルークスの膝まわり空間(座ったときのヒザと前席背もたれまでの距離)はライバルよりも広い。とはいえライバルはどれも呆れる広く、2位のNボックスとは運転席シート前後位置を1ノッチ下げるだけで縮まってしまうようなほんの僅差でしかないけれど、ナンバーワンの広さを得ているのは大きなセールスポイントである(基本設計を共用する三菱eKスペース/eKクロススペースも同等)。
さらに、リヤシートスライド量はクラストップの320mmを確保。これが何を意味しているかと言えば、アレンジの幅広さだ。最後部へスライドした際はクラストップの後席ヒザまわりスペースを確保しつつ、ひとたび後席を前へ出せば後席に人が座れる状態をキープしたまま、クラス最大の荷室を確保できるというわけだ。
たとえば後席を畳まずに積める機内持ち込みサイズスーツケース(40Lサイズ)の数は、ライバルが3個なのに対してルークスは4つとひとまわりゆとりがある。セカンドカー的な使い方で「荷室の広さなんて関係ない」というユーザーはスルーしてもいい話だが、もしも「ファーストカーとして使うので荷室の広さも大切だ」というのであれば、ここは見逃せない長所となるだろう。
後席を倒した時の荷室長、そして2WD車では荷室床下収納スペースの容量もクラストップである。
新型ルークスの膝まわり空間(座ったときのヒザと前席背もたれまでの距離)はライバルよりも広い
リヤシートを倒すことでフラットな荷室空間が出現。車中泊などの使い方も考慮されている
徹底して「ライバル以上」を実現させたルークス

後席ドアの最大開口幅は650mmとクラストップ
乗り降りのしやすさもこだわっている。スライド式になっている後席ドアの最大開口幅は650mmと、先代より95mmも増してこれまたクラストップ。開口幅が広ければ広いほど乗降時の姿勢が楽になるから乗り降りやすくなる。さらに上級グレードには「ハンズフリーオートスライドドア」と呼ぶ、車体下で足を動かすことでセンサーが反応して電動スライドドアが開閉する仕掛けを用意。ライバルでも同様の装備はあるが、何を隠そう、左右ともに設定しつつ、開くだけでなく閉じることまでできるのはルークス(と三菱eKスペース/eKクロススペース)だけである。とにかく「ライバルよりも上に行こう」という強い決意を感じるのは気のせいではないだろう。
そのうえ、センサーを2個使うことで誤作動を防ぎつつ認識率の高さを実現。これが使ってみると、本当によくできているのだ。
もちろん、快適装備だって充実。このクラスでは常識となっているスライドドアのロールサンシェードをはじめ、前席に加えて後席のUSBソケット、前席背もたれ後ろにある新幹線や飛行機のような折り畳みテーブル、さらには空間が広いゆえに真夏に後席が暑いというスーパーハイトワゴンのネガを解消する後席シーリングファンも設定。それぞれ単体でみればライバルにも採用車種があるが、すべてを備えるのは新型ルークス(と三菱eKスペース/eKクロススペース)だけだったりする。徹底して「ライバル以上」を実現しているのだ。
さらには小物入れも、インパネにはビックマックの箱も置ける引き出し式のテーブルがあったり、インパネのドリンクホルダーは吹き出し口の向きを調整すれば飲み物に風が当たるように設計されていたり、ところどころに気が利いている。こんなところまで!と思った工夫は、助手席シート下のトレーが二重底になっていること。まるで隠しスペースのような下部は車検証や取扱い説明書を入れることを想定していて、これは取説一式をグローブボックスではなくここへしまうことで、グローブボックスを最大限活用しようという配慮だ。
折りたたみ式のテーブルや小物入れ、USBソケットなど、後席での快適性、利便性を追求している
エアコンの風を後席にまで拡散させるサーキュレーターは夏場にはとくに嬉しい装備
ライバルを超える先進安全機能と先進運転補助技術

上級グレードの「プロパイロットエディション」には、高速道路においてドライバーがアクセルやブレーキを操作することなく速度を自動調整する(前を走るクルマに速度を合わせる)機能を搭載
ここまでは広さと利便性について説明してきたが、実は新型ルークスにはもうひとつのウリがある。ライバルを超える先進安全機能と先進運転補助技術だ。
たとえば衝突被害軽減ブレーキ(緊急自動ブレーキ)などの先進安全機能は、カメラにレーダーを加えることで正確に状況を判断する能力がスゴイ。そのうえ高性能レーダーは前を走るクルマに加えてその前を走る車両の動きまで検知。2台前のクルマの減速をいち早くキャッチして、状況によっては1台前のクルマがブレーキを踏む前からドライバーに音と光でブレーキ警報を与えて減速を促し、玉突き衝突を防ぐ機能まで組み込まれているのだ。軽自動車として初採用である。
そのうえ、運転アシスト機能はライバルを凌駕する水準。上級グレードの「プロパイロットエディション」には、高速道路においてドライバーがアクセルやブレーキを操作することなく速度を自動調整する(前を走るクルマに速度を合わせる)機能を搭載。さらに車線を維持するようにハンドル操作を支援する機構も組み込まれている。ライバルにも採用しているクルマがあるが、たとえばNボックスは渋滞となり時速約30km/hを下回るとシステムが解除されるし、タントは停止までフォローしてくれるが、停止保持まではしない(停止中はドライバーが自分でブレーキを踏む必要がある)。しかし、ルークスは停止保持までクルマがおこない、ドライバーは発進時にアクセルを軽く踏むなどの合図を出すだけでいいのだ。ドライバーの疲労を大きく軽減してくれるそんな仕掛けも、ライバルの中でルークスが初採用である。
高速道路で実際に使ってみたが、システムはかなり進化していて加減速のスムーズ感は1年間に登場したデイズに比べても成長を実感できた。ステアリングアシストも、クルマが一生懸命車線をトレースしようとしてくれて頼もしい。ハンドルの動きもかなり滑らかになったことを実感でき、日常的に使いたくなる仕上がりだ。
そんな新型ルークス、運転席に乗って感じたのは視界、というか見晴らしのよさだ。ライバルに比べて周囲が車両ちかくまで見えるから、街中、特に交差点などでは安心安全につながる。その秘密はシートの高さにもあった。ライバルよりも着座位置が高く、そのぶん視線の位置が高いのだ。結果としてミニバンに近い見晴らしを実現しているのである。さらにそれは、パッケージング効率上も有利で、高くすれば自ずと前席の位置が前になるから、後席が広くなるというわけだ。
ライバルよりも着座位置が高く、そのぶん視線の位置が高いため、見晴らしに優れる
「プロパイロット」の運転アシストの性能は高く、ステアリングのアシストも自然かつ信頼できる仕上がり
背の高さを感じさせないフットワークのよさに関心

エンジンは振動が抑えられており、全体的な静粛性もハイレベル
乗り味は、日産の気合を感じるもの。
まず、3気筒エンジンの振動が抑えられていて快適。さらには高速走行時に、路面さえタイヤノイズの音の発生が少ない滑らかな舗装であれば車内の音が静か(風切り音が静かなことに感動)で、前席と後席が普通に会話できることにも驚いた。
スーパーハイトワゴンはどれも全幅に対して背が高いプロポーションだから、物理特性としてコーナリングは苦手とする。それは事実だが、ルークスを運転しているとそのあたりの仕立てもかなりこだわっていることを実感。旋回時も車体が傾く大きさと速度をしっかりとコントロールしているから、唐突に「グラリ」となる挙動が抑えられていて、背の高さを感じにくいのだ。もちろんライバルはどれもひと昔前に比べて挙動が落ち着くなど進化しているのだが、なかでもルークスの出来はかなりいいし、進化に驚かされる。
オススメのグレードは「ハイウェイスターGターボ」

自然吸気エンジンとターボエンジンの価格差は9万円ほど。であればオススメはターボだ
エンジンは自然吸気とターボがあるが、オススメはターボだ。自然吸気エンジンも従来に対してトルクを太らせるなど頑張っているが、やはり重い車体に対しては動力性能不足が否めない。平坦な路面ならいいが坂道などでは停止からの発進加速で力不足を感じることがある。逆にある程度スピードが乗ると高速道路でも「自然吸気でいいかな」と思えるが、とはいえ軽自動車は市街地で乗ることが多く発進加速性能は重要だ。
そう考えるとやはり、動力性能にゆとりが生まれるターボエンジンを選びたい。ターボエンジンになれば力不足を感じることはないし、それが自然吸気エンジン(の同等グレード)に対して9万円ほどのアップと考えればコストパフォーマンスも高い。燃費が気になる人もいるかもしれないが、軽自動車の場合は走行状況によってはターボエンジンのほうが燃費はいい状況だってある。現在のところ新型ルークスの受注は最上級仕様の「プロパイロットエディション」が多いようだが、だとすれば絶対に「ハイウェイスターGターボ」を選ぶべきだ。選ばない理由は見当たらない。
「デイズルークス」から「ルークス」から名称変更した理由は!?

ルークスは企画立案および設計を日産が、製造を三菱が担当している
ところで先代は「デイズルークス」と呼ばれていたが、新型の車名は「ルークス」となりデイズシリーズから独立を果たした。「先代はスーパーハイトクラスが主力ではなくクラスとして広がっていなかったが、いまはスーパーハイトクラスが認知されたので」とその理由を説明する。しかし、従来型が実質的に三菱の開発だったのに対し、新型は日産側が主体となって開発した車両であることは無関係ではない気がする。心機一転イメージチェンジをはかった……と考えるのが自然だろう。
日産 ルークス ハイウェイスターX プロパイロット エディション(CVT)データ
■全長×全幅×全高:3395×1475×1780mm
■ホイールベース:2495mm
■トレッド前/後:1300/1290mm
■車両重量:970kg
■エンジン:直3DOHC
■総排気量:659cc
■最高出力:52ps/6400rpm
■最大トルク:6.1kgm/3600rpm
■サスペンション前/後:ストラット/トーションビーム
■ブレーキ前/後:ディスク/リーディングトレーリング
■タイヤ前後:155/65R14