新車試乗レポート
更新日:2020.08.21 / 掲載日:2020.08.20
【試乗レポート ダイハツ タフト】ハスラーとはどう違う? ライバルとの違いをチェック

ダイハツ タフト(ダークブラックメッキパック装着車)
文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
これはスズキ「ハスラー」とは方向が違うかも。
それが軽自動車クロスオーバーSUVジャンルへ新たに参入してきた「タフト」を試乗し終えた印象だ。
しかし第一印象は異なる。最初に感じたのは「これってハスラーのライバルだよね?」というもの。多くの人も同じではないだろうか。しかしタフトに触れていると徐々に「ハスラーとは方向が違うかも」と感じはじめ、試乗を終えることには確信に変わった。ハスラーとは似ているようで違うのだ。
といわけで、タフトのキャラクターを説明するには、ハスラーと同じ部分と異なる部分を伝えるのがもっとも分かりやすいだろう。そこで今回は、ハスラーと比較しながらタフトのキャラクターを分析していくとする。
オンロードでの乗り心地や快適性を重視したクロスオーバーSUV

タフト G(レイクブルーメタリック)
まずハスラーと同じところは、ハイトワゴンのパッケージングをベースにしたクロスオーバーSUVだということ。SUVだけどスズキ「ジムニー」のようにガチではなく、車体構造なども乗用車ライク。悪路走行よりはオンロードでの乗り心地や快適性が重視されている。

ボディサイズは最低地上高を除き、ムーヴとほぼ同寸で使い勝手に優れるサイズ
ボディのパッケージング的には「ワゴンR」や「ムーヴ」といったハイトワゴンに近いから後席も広い。毎日のパートナーとして考えたときに使い勝手に優れたスタイルと言える。それもハスラーと共通している長所だ。
そのうえでワゴンRやムーヴに比べると遊び心があって、所有すると生活が楽しくなりそうに思わせる部分は、クロスオーバーSUVブームをうまく味方につけた巧みな商品戦略だと実感する。もちろんその企画の前提にあるのはハスラーという先輩の存在で、その大ヒットがなければタフトがこうしてデビューすることはなかっただろう。
ボディカラーは全部で9色。ディーラーオプションでメッキ加飾が装着可能
最低地上高は190mm、アプローチアングルは27°、ディパーチャーアングル58°
電子カードキーを携帯して検知エリアに入るとドアロックが解錠される「ウェルカムドアロック解除」を採用
ハスラーとの最大の違いは後席の位置付け

倒したときのフラットさにこだわった荷室とリヤシート
いっぽうで、ハスラーと比べた時に明確に異なる部分がある。それは後席の位置付けだ。
ハスラーにとってのそれは、左右独立のシートスライドも備えていてワゴンRと変わらない水準。快適に座ることを最優先としている。
しかしタフトではスライド機能を非採用。なぜなら、タフトが見据えているのはリヤシートを格納した状態だからだ。床下にスッキリと収まり、まるでリヤシートなど最初から存在しなかったかのような後席格納時の床のフラットさが素晴らしい。「ダイハツの軽自動車でもっとも平ら」と開発者もアピールするほどである。後席は座ること最優先ではなく、リヤシートスライドを諦めてでも、シートを倒した際の使いやすい荷室を提供することがタフトのこだわりなのだ。
もちろん床面や後席背面はハードな樹脂仕上げになっているから荷物をガンガン積め、汚れたら水拭きで掃除できるからアウトドアレジャーのパートナーとしてもってこいだ。細かい部分もこだわりが貫かれていて、たとえばリヤドアのトリムにはアームレストがないが、これはアームレストの張り出しを無くすことで荷室幅を広げてより多くの荷物を積むための工夫。そんなところまで常識外の思想で設計されているのである。こういう徹底は大いにアリじゃないだろうか。
というわけで後席に関して両者の違いを端的に言うと「ハスラーは乗車重視」であり、いっぽう「タフトは格納時の荷室重視」なのだ。ただし、タフトのフォローをすれば、そんな後席でも乗車するにあたっても困ることは何もない。たしかにシートスライドがないこと(そのためシートの取り付け位置はシートスライド装着車に比べると後端よりも少し前付近)によりほんのわずかに後席に座った際の膝回りのスペースは狭くなっているが、とはいえ「ライバルと比べれば」というレベルの話であり、単体で考えれば充分に広いと言い切れる範疇だ。そのおかげて獲得できた荷室の実用性を考えればウィークポイントにはまったくあたらない。個性である。
ディーラーオプションでフレキシブルボードを棚として使えるキットやネットも提供している
片倒し状態では3名+長物をラクラク搭載
フレキシブルボードのアレンジで底面をさらなる収納スペースとしても活用できる
全車標準装備の「スカイフィールトップ」は前席でも開放感あり

スカイフィールトップには、スーパーUV&IRカット機能を採用。さらにシェードも備わる
そして、そんな見方をすると、両者は前席にも明確な違いを感じる。決定づけているのは「スカイフィールトップ」と呼ぶガラスルーフだ。前席頭上は固定ガラス式のルーフになっているアイテムである。
その採用はいま販売している軽自動車としては唯一で、全車に標準装備というのも英断(余談だがあり/なしを作り分けるのに比べてコストを大幅に抑えられたそうだ)。このルーフの存在が、タフトのメインが前席にあることを声高に主張しているといっていい。

運転席と助手席についてはホールド性が高いシート形状を採用している
実車で触れてなにより特筆すべきだと理解できたのは、そのメリットをしっかりと感じられることだった。実のところ、多くのクルマはガラスルーフを装着していても運転席からそのメリットは味わいにくい。真上を見上げない限りは視界に入らないからだ。しかしタフトはAピラーが立ってルーフが一般的なクルマよりも前方へ延びているおかげで、ガラスルーフ越しの風景が自然にドライバーや助手席の人の視界に入ってくるのである。これは新鮮な感覚。上空まで風景となる大パノラマを味わえるのだからうれしい。これがあるだけでハスラーではなくタフトを選びたくなってくる……というのはあくまで独り言だけど、とにかく実際に体験して欲しいポイントだ。

メーターは2眼式でタコメーター付きで中央にTFTモニターを配置。パーキングブレーキは電動タイプとなる
いっぽうで、足元もタフトらしい個性がある。それはセパレートシートにセンターコンソールを組み合わせていること。センターコンソールとは運転席と助手席を隔てる“隔壁”で、ハイトワゴンタイプの軽自動車に備えるのは異例である。なぜなら室内が狭く感じてしまうからだ。しかしタフトは“狭く感じる”ということを逆手にして“包まれ感”という個性に置き換えた。普通の軽自動車とはあえて違いを出して勝負に出たのである。
ガラスルーフも含め、考え方としては「ワゴンタイプの軽自動車の延長線上」ではなく、「たまたま軽自動車サイズで作ったコンパクトクロスオーバーSUV」と解釈すればしっくりくる。普通の軽自動車との違いが個性であり、アピールポイントなのだ。
繰り返しになるが、前席重視のユーザー、なかでも後席を倒したくさんの荷物を積んでアクティブに使う人とのマッチングは抜群に言い。ちょっと言い方を換えれば、「『ジムニー』では極端すぎるけどその手前のSUVが欲しい」という人に最適なチョイスだ。
走行フィールはクルマと一体感のある自然なもの

上級グレードを選ぶなら、走行性能に余裕のあるターボがオススメ
走りは、コーナリングのロールの自然さが好印象だ。日常的によくある、30キロくらいで交差点を曲がる際に背の高さを感じさせることなく、安定感によるクルマとの一体感があるのが好ましかった。
ただし、動力性能は自然吸気エンジンだと心もとない。特に、レジャーのために遠出をするなら上級グレードの「G」を買うのであれば、12万1000円を足して「Gターボ」を買うことを強くお勧めする。エンジンがパワフルになって加速にゆとりが増し、発進がスムーズになるだけでなく幹線道路への合流や高速走行も楽になって安全だからだ。自然吸気エンジンに比べるとエンジン回転が上がるケースが減るので、エンジンノイズが静かになるのも美点である。
ダイハツ タフト G(CVT)データ
■全長×全幅×全高:3395×1475×1630mm
■ホイールベース:2460mm
■トレッド前/後:1300/1295mm
■車両重量:830kg
■エンジン種類:直3DOHC
■排気量:658cc
■最高出力:52ps/6900rpm
■最大トルク:6.1kgm/3600rpm
■サスペンション前/後:ストラット/トーションビーム
■ブレーキ前・後:Vディスク・リーディング・トレーリング
■タイヤ前後:165/65R15