新車試乗レポート
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2021.11.24
【DS3 クロスバック E-テンス】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】
文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス
欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急進。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、新しいEVが続々と登場している。そうした情報を耳にし、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も案外多いのでは?
とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのがまだまだ難しい。
本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。
今回フォーカスするEVは、フランス・パリのラグジュアリーを体現するコンパクトSUV「DS 3 クロスバック E-TENSE(イー・テンス)」。先行上陸したガソリンエンジン版と同じ車体に、EVのパワートレーンを組み込んだこのモデルは、果たしてどんな魅力を備えているのだろうか?
DS 3 クロスバックE-TENSEのプロフィール
コンパクト・ラグジュアリーSUVというジャンルを創出した「DS 3 クロスバック」は、パリ発信のブランドとして業界に新しい風を吹き込むDSオートモビルのエントリーモデルでもある。
2014年のブランド誕生以来、DSオートモビルはクルマづくりにおいて、1920年代のフレンチラグジュアリーカーの復興を担うべくヘリテージとアヴァンギャルドというふたつのテーマを重視してきた。
ヘリテージでは、過去の自動車文化はもちろんのこと、オートクチュールやジュエリー界の匠のワザ=“サヴォワフェール”といった彼の地の伝統的手法とその空気感を持ち込むことで、フランス文化の世界観を表現。それは、DS各車の内外装を見れば、ひと目で理解できるこだわりだ。
一方のアヴァンギャルドは、DS各車のデザインなどでも実感できる要素だが、実はパワートレーンにおいても同様の考え方が貫かれている。事実、DSオートモビルは、持続可能なモビリティの実現に向け、2015年の創世記からフォーミュラEに参戦。モーターやインバーターといったパワートレーンの独自開発を行うなど、新しいエネルギー形態の模索に挑戦し続けてきた。その結果、2018〜2019年の“シーズン5”と2019〜2020年の“シーズン6”において、DSオートモビルはフォーミュラEのドライバー&マニュファクチャラーの両タイトルを獲得。こうした経緯を踏まえると、パワートレーンの電動化はDSオートモビルが標榜するアヴァンギャルドの中核ともいえる。
そんなDSオートモビルは、プジョーを始め、全14のブランドを傘下に収める世界第4位の自動車グループ・ステランティスの1ブランドであり、かつては前身であるグループPSAに属していた。そのためDS 3 クロスバックには、プジョーの「208」「2008」シリーズと同様、ひとつの車種に内燃機関モデルとEVバージョンとが存在する。これは “パワー・オブ・チョイス”という独自コンセプトによるもので、クルマを取り巻く環境が目まぐるしく変化する中、好みやライフサイクルに合わせて気軽にパワートレーンを選んで欲しいとの考えから生まれたものだ。
DS 3 クロスバックは、そうした旧PSAグループのビジョンを具現する新世代プラットフォーム“CMP (Common Modular Platform)”を初採用したモデルでもある。CMPはB/Cセグメント向けに開発されたもので、サイズ設定やパワーユニットを柔軟にチョイスできるほか、キャビンやラゲッジスペースの広さをさほど犠牲にすることなく、EVとエンジン車など複数のパワートレーンを搭載できるよう配慮されている。EV仕様のE-TENSEには“eCMP(エレクトリック・コモン・モジュラー・ プラットフォーム)”が使われており、ハードウェアの多くを同じくeCMPを採用するプジョー「e-208」や「e-2008」と共有している。
バッテリー容量は50.0kWhと「e-208」や「e-2008」と同じであり、一充電当たり398km(JC08モード)の走行が可能だ。これだけの航続距離があれば、都市部でのコミューター的な役割だけでなく、旅行などちょっとしたロングドライブもこなせるだろう。
また、必要十分のバッテリーを搭載しながら、室内空間がほぼ犠牲になっていない点もE-TENSEの魅力。これは、リアシートの足下を避けるよう、フロントシート下やセンターコンソール、リアシート下にバッテリーを上手に分散配置したeCMPの賜物だ。DS 3クロスバックE-TENSEは全長4120mm、全幅1790mm、全高1550mm、ホイールベース2560mmとコンパクトなSUVだが、キャビンは大人4名がラクに移動できるだけのスペースが確保されている。
DS 3クロスバックどうしで比較すると、スタイリングにおける違いはほとんどないが、エンジン車に比べてEVのE-TENSEは色使いなどがよりラグジュアリーな仕立てとなっている。対するインテリアも、試乗した上級グレード「グランシック」の場合、シート、ダッシュボード、ドアトリムがホワイトで統一されるほか、ハンドルまでオフホワイトになるなど、より高級感が色濃い。
EV化によって走行中の静粛性がアップし、加減速もなめらかにこなすDS 3クロスバックE-TENSE は、DSオートモビルが目指す高級車の世界観が、エンジン車よりも色濃く投影されたモデルといえる。
■グレード構成&価格
・「グランシック」(534万円)
・「パフォーマンスライン」(534万円)
■電費データ
<グランシック/パフォーマンスライン共通>
◎交流電力量消費率
・JC08モード:135Wh/km
>>>市街地モード:非公表
>>>郊外モード:非公表
>>>高速道路モード:非公表
◎一充電走行距離
・JC08モード:398km
同門のプジョー2008と同じく、SUVタイプとしては優秀なデータを記録
今回のテストは東名高速の集中工事の時期にあたってしまい、変則的なコースとなった。事前に工事区間をチェックすると、その4の海老名サービスエリア→横浜青葉が渋滞することが予想されたので、その1とその2は従来通りにし、その3は従来の小田原西→海老名サービスエリアではなく距離は短くなってしまうが小田原西→二宮として一般道で東名・秦野中井まで走り、その4を秦野中井→海老名サービスエリアとした。
目論見はあたって集中工事の区間は避けられたが、その1は交通量が多く、平均速度が下がり気味。とはいえ、普段でもあるぐらいだった。電費はe-208の6.2km/kWh、e-2008の5.4km/kWhに対して5.5km/kWh。e-2008のときは交通量が少なく制限速度100km/h近くをずっと維持できたが、e-208は平均速度が落ちて電費が良くなった。DS3クロスバックE-TENSEのときがもっとも交通量が多く、一部区間では20km/hほどにまで落ちたので速度変動が大きく、そこでは電気を使ったので、電費が良くなる部分と悪くなる部分があって結果的にe-2008に近い数値となった。
制限速度70km/h区間となるその2は6.5km/kWhで、e-208の7.6km/kWh、e-2008の7.1km/kWhに比べると少し悪化気味。この区間はたいていスムーズに走れるのだが、この日は東名を避けて迂回しているのか、交通量が多めで渋滞こそしないものの速度変動が多かったことが影響したのだろう。同じく制限速度70km/kWh区間のその3では7.1km/kWhと良くなっている。同日テストのホンダe(スタンダード)も、ほぼ同様の電費の変化だった。
その4は制限速度100km/h近くでほぼ走り続けられたため6.7km/kWhと、e-208の6.3km/kWh、e-2008の6.0km/kWhより少し良くでたが、妥当なところだろう。計測開始地点が終了地点よりも標高が40mほど高く、電費には有利だが、それほど大きな影響はなかった。
軽量級EVに近いデータを記録。回生ブレーキの強さは2段階
ワインディングでは、いつものように片道13.782kmで標高差が963.6mもある箱根ターンパイクの特性をいかして上り区間と下り区間を計測。上りは2.0km/kWhでe-208とe-2008とまったく同数値だった。もしかしたらグループPSA(現ステランティス)の車載電費計の表示は下限が2.0km/kWhなのかもしれない。とはいえ、JC08モード電費が同一のホンダeアドバンスも2.1km/kWhだったので大きく外れていることはないだろう。
下りでは車載電費計の変動から推測して2.9kWh分が回生された。ちなみにe-208は2.6kWh、e-2008は3.1kWhだった。3台とも回生の強さは、エンジンブレーキ並の自然な感覚であるDレンジと、それよりも強くはなるが1ペダルドライブほどではないBレンジの2種類。下り勾配がきつくなるとBレンジ制限速度を超えていってしまいそうになってブレーキをかけることになるが、当テストではACCを活用することでペダル操作はなしに下ってこれている。
カタログ数値に近いデータを記録し、優秀なシティコミューターとしての顔も見せる
一般道の電費は7.9km/kWhと、e-208の6.2km/kWh、e-2008の6km/kWhに比べてもだいぶ良好な結果となった。同日テストのホンダe(スタンダード)も7.4km/kWhと良かったので、交通状況によるものだろう。一般道は高速道路および自動車専用道に比べて、信号のタイミングや周囲の流れによって左右されやすいのだ。カタログ電費(同車はJC08モードしか公開されていないが)を10%ほど上回ったのだから立派だといえる。BEVはカタログ電費と実電費の乖離が、意外と少ないとも見て取れる。ただし、ヒーターの影響が大きいのはよく知られているところ。今回は外気温が15~20℃程度でヒーターにほとんど負荷がかからない、電費的には良好なコンディションだった。また、当テストは2021年4月に始めたので寒い日は経験していない。次回は12月のテストになるので、ヒーターの影響が見られるかもしれない。
総電力電力容量50kWhは現状のEVではバランスに優れている
グループPSAのBEVはバッテリー残量が●%と明確には表示されず、残量はアナログメーターの針のようにざっくりとはわかる表示と走行可能距離で判断する。スタート地点での走行可能距離は280kmで、36km走った往路・海老名サービスエリアでは232kmだった。当日テストのホンダeはバッテリー容量35.5kWhと小さくて不安があったのでここで短い充電タイムをとったがDS3クロスバックE-TENSEは充電なし。153km走った復路・海老名サービスでの走行可能距離は80kmだった。ちなみにホンダeは往路で15分の充電をしたにもかかわらず復路・海老名サービスエリア到着時はバッテリー残量5%、走行可能距離11kmとギリギリ。同じような大きさや重量の両車だが、バッテリー容量が35.5kWhか50kWhかで使い勝手はずいぶんと違うことを実感した。
出力40kWの急速充電器を30分使用して、13.7kWhが充電された(充電器の表示による)。実際の出力は30kW弱ということになる。走行可能距離は176kmまで回復した。
DS 3 CROSSBACK E-TENSEはどんなEVだった?
パワートレーンとバッテリーはプジョーe-208およびe-2008と同様。電費はカタログにJC08モードの記載しかないが、一充電走行距離ではe-208が403km、e-2008が385kmなのに対して398kmと中間となる。車両重量、タイヤサイズ、前面投影面積はe-2008に近いが、わずかながらカタログ電費はいいようだ。
DSオートモビルはプレミアムブランドなので、車両価格は534万円と少々高価でe-2008の約100万円高となるが、それを補って余りある魅力がある。小洒落たスタイルはもちろんのこと、BEVらしい静粛性に一層磨きがかけられていて驚くほどなのだ。とくに優秀なのがロードノイズ、パターンノイズの低さで、Bセグメントでここまで出来ることに感心。独特のデザインとも相まって、走らせていると現実離れした不思議な感覚になるのが面白い。プジョーの2台と同様に、電費に有利なBセグメントでありつつバッテリー容量もそれなりに確保されているというバランスの良さにも好感が持てる1台だ。
DS 3 クロスバック E-TENSE(50kWh)
- ■全長×全幅×全高:4095×1745×1465mm
- ■ホイールベース:2540mm
- ■車両重量:1500kg
■全長×全幅×全高:4120×1790×1550mm
■ホイールベース:2560mm
■車両重量:1580kg
■バッテリー総電力量:50.0kWh
■モーター定格出力:57kW
■モーター最高出力:100kW(136ps)/5500rpm
■モーター最大トルク:260Nm/300-3674rpm
■サスペンション前/後:ストラット/トーションビーム
■ブレーキ前/後:Vディスク/ディスク
■タイヤ前後:215/55R18
取材車オプション
■メタリックペイント、バイトーンルーフ、ナビゲーションシステム、ETC