新車試乗レポート
更新日:2022.02.15 / 掲載日:2022.02.14
【試乗レポート マツダ ロードスター】軽さが生み出す楽しさを実感させる「990S」

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
スポーツカーにとって軽さは正義だ。
まずはそこを理解しておかないと、マツダ「ロードスター」に新たに加わった特別仕様車「990S」の狙いを理解するのは難しいかもしれません。
スポーツカーにとって「軽さ」が重要な意味を持つ理由
軽いことのメリットは何か? それは運動性能がよくなること。ちょっとイメージしてみてください。自分自身が運動するときに、身軽な状態と思い荷物を背負った状態ではどちらが俊敏に動けるでしょうか。考えるまでもなく後者でしょう。
クルマだって同じこと。重量が軽いと身軽になって、加速、旋回、そして減速と運動性能が良くなるのです。
ロードスターは2シーターのオープンスポーツカー。そんなロードスターには「S」というグレードが用意されていて、それは多くの人にとっては「値段の安いベーシックグレード」という認識かもしれません。正直に言うと、筆者もそんな印象を持っていました。
でも違うんです。
販売戦略的な事情もあって「装備を省いて値段を抑えたベーシックグレード」という立ち位置も兼ねているのは事実です。だからキャラがボヤけてしまっているのは否めないのですが、何を隠そう、「S」の狙いは“軽さ命”。「ほかのグレードよりも軽く、ロードスターの原点を追求した乗り味はこのグレードでないと味わえない」と開発者。ベーシックグレードだけど、「ただの安いグレード」ではないのです。
車両重量は990kg。安全装備などを搭載する今どきの量産スポーツカーでは、普通はあり得ない軽さです。
特別仕様「990S」は軽さというロードスターが持つ本質を追求

そんな「S」をベースに特別仕様車として用意されたのが「990S」で、これがロードスターシリーズの中ではとても意味のあるグレード。「990S」いう車名は「S」グレードをベースとし、“車両重量990kg”というメッセージが込められています。
普通の「S」との違いは、バネ下重量の削減がメイン。レイズ社製の鍛造アルミホイールは標準装着品よりも1本あたり約800g軽く、1台では約3.2kgのダイエットを実現しました。ブレンボ製の対向4ピストンブレーキキャリパーはその大きな見た目とは裏腹に標準装着品よりも軽いのが自慢(ただしローターがSより大径化されているのでその分は重い)。人間だって走る時、靴が軽ければ活発に動けます。それと同じで、クルマも「バネ下」と呼ばれるタイヤ周辺の部品が軽ければ運動性能が向上。990Sはそこに注力した、“軽いロードスター”の理想を追求した仕様と言っていいでしょう。






バネ下重量の軽減に合わせて、サスペンションとパワーステアリングの味付けも変更。単に軽くするだけでなく、操縦性をトータルで微調整したあたりから、マツダの強いこだわりがビンビン伝わってくるようですね。
もうひとつ、走行性能面ではエンジン制御も特別な仕立てになっていて、アクセル操作に対するエンジンの反応がよくなっているのも990Sの差別化。これは当初は予定していなかったものの「そこまで走りを磨くなら、エンジンも特別なレシピにしたい」というパワートレイン開発チームからの強い要望なのだそうです。マツダの開発陣は本当に熱いですね。
ちなみに見た目の違いは、ダークブルーの幌(同時に追加された特別仕様車「Navy Top」と見た目は同じだが990S用は軽量化のため遮音材がなくリヤウインドウガラスも薄い)とインテリアでエアコン吹き出し口の仕立てがブルー/ピアノブラックになっていることのみ。アピールは控えめです。
走りは、とにかく楽しいに尽きます。
楽しめるのは、「軽快」と「意のまま」を具現化したような、軽いモデルならではの人馬一体感。ガッチリ硬めたスポーツカーとは一線を画するしなやかな足回りは、ひらひらと曲がる感じで、ゆっくり走っても楽しいのが好印象。同じスポーツカーでも、ハイパワーエンジンを搭載して速さとコーナリング性能の高さを誇るようなモデルとはまるで方向性が違っていて、肩の力を抜いて楽しめるのがロードスターらしさといっていいでしょう。
990SにはリヤスタビライザーやLSDの搭載もなく、スペックとして見ると「走りを語るには足りない」と思われがちですが、そうではない。「部品があるない」で語れないことは乗れば明らかです。それが分かる人向きの、ツウな仕様と言えるのでしょう。
1gも車重を増やさずに旋回姿勢を整える技術「KPC」

また、990Sのデビューに合わせて、マツダはロードスター全車に「KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)」という電子デバイスを採用しました。これは旋回中に、状況に合わせて後輪の内輪にドライバーにもわからないほどの軽いブレーキをかけて旋回姿勢を最適化する新発想。機能のオン/オフ(横滑り防止装置をオフにすると機能が働かない)を比べてみたところ、明確に差を感じされるわけではありません(=効いていても自然な作動ということです)が、こころなしか踏ん張り感が増しているのを感じました。違和感は全くありません。ちなみにこれはプログラム制御だけなので「装着によって1gも重くなっていない」とマツダは説明します。
ところで990Sの車両重量に関して「通常のSグレードでも990kgでは?」と思う人もいるかもしれません。それは半分正解で半分誤り。
軽さの「S」からハイスピード仕様の「RS」まで複数の選択肢を用意
車検証上は「S」も「990S」も同じ990kgですが、理由は車検証の記載値が1kg刻みだから。実際の重量は、ほんの少しの違いですが「990S」のほうが軽いのです。
990Sは、ロードスターの最軽量であり、軽さを強調した味付けの仕様。わずかな重量差とマツダの求める理想にロマンを感じられる人向きの仕様といえるでしょう。
いっぽう同じロードスターでも「RS」などは足回りが締めてあり、よりハイスピードを楽しむ人向きと言えます。そう、ロードスターはどんな走りを楽しみたいかによって、仕様を選べるのです。
マツダ ロードスター 990S(6速MT)
■全長×全幅×全高:3915×1735×1235mm
■ホイールベース:2310mm
■車両重量:990kg
■エンジン:直4DOHC
■総排気量:1496cc
■最高出力:132ps/7000rpm
■最大トルク:15.5kgm/4500rpm
■サスペンション前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
■ブレーキ前・後:Vディスク/ディスク
■タイヤ前後:195/50R16
■新車価格:262万3500円-335万6100円(全グレード)