新車試乗レポート
更新日:2022.04.01 / 掲載日:2022.03.30
【試乗レポート 改良新型メルセデス・ベンツ CLSクーペ】乗ればやっぱりメルセデス

文と写真●ユニット・コンパス
美しさが選択の基準になるクルマがある。CLSクーペは、まさにその筆頭だろう。2021年9月に改良を受けた新型が2022年いよいよデリバリー開始となった。
メルセデスのイメージを変えた4ドアクーペ
初代CLSが誕生したのは2005年のこと。それまでメルセデスはその歴史において「最善か無か」を哲学とし、究極の実用車を目指すクルマづくりを行ってきた。それゆえ合理性よりもデザインを優先したCLSの存在はセンセーショナルで、「CLSは本物のメルセデスか」などという議論が巻き起こるほどのそれは事件だったのだ。しかし結果としてCLSは大成功を収め、2018年に全面改良した現行型3世代目では、もはや定番モデルの地位を固めている。
成功の秘密は、CLSが決して実用性を疎かにしなかったことにつきる。美しさと同時に機能性にも徹底的にこだわったことで、メルセデスとCLSはユーザーからの信頼を勝ち得たのだ。このCLSの成功以来、メルセデスの印象そのものも、実用的でなおかつファッショナブルなブランドというものに変わってきている。
マイナーチェンジのポイントもデザイン

メルセデスが「美の源流」と呼ぶCLSクーペ。現行モデルはメルセデスがデザインにおける基本思想としている「Sensual Purity(官能的純粋)」をいち早く取り入れたモデルでもある。その特徴は、シンプルな曲面でありながら豊かな陰影を生み出していること。とくに印象的なのがボディサイドで、キャラクターラインやエッジといったディテールを最小限に抑えながら豊かな表情が生み出されているのは見事。改良を受けた新型CLSクーペでも基本的な骨格は変わっていない。
改良のポイントはフロントエンドに集中。バンパー部の造形がよりワイド感を強調したものになり、グリルはマットクローム仕上げの小さなスリーポインテッドスターが散りばめられた「スターパターングリル」に変更されている(「220dスポーツ」、「450 4MATICスポーツ」)。
また、ボディカラーが新色「スペクトラルブルー」を含む全10色に加えて、受注生産の「Individualization プログラム」(全5色)が設定されたのもニュース。これにより、従来では一部のハイエンドモデルのみに許されていた「コートダジュールライトブルー」や「テイデライトグレー」も選べるようになった。合わせてインテリアカラーにも新色を採用。デザインが大切な要素となるモデルだけに、内外装色の選択肢が増えたのは嬉しいところだ。
クーペらしく華やかなインテリア。改良で使い勝手も向上

試乗車は「CLS 220dスポーツ」で、車両価格918万円にオプション(エクスクルーシブパッケージ、ガラススライディングルーフ、メタリックペイント)がついておおよそ1000万円という個体。ダイヤモンドホワイトのボディカラーに内装色はマキアートベージュ/マグマグレー本革シートという組み合わせは、ダークトーンの内装色を採用するクルマが多い中で、ドアを開けるだけで気分が高まるクーペらしい演出だ。
ステアリングホイールまで明るいレザーが使われているため、走り出す前に思わずハンカチで手を拭ってしまった。リムの細さといいデザインといい、ちょっと1960年代のエボナイト製ステアリングを想起させてくれるロマンチックなディテールだ。じつはこのステアリングも最新世代のものに改良されていて、ステアリングを保持しているかどうかのセンサーがトルク感応式から静電容量式センサーとなった。従来型では、ディスタンスアシスト・ディストロニック作動時にステアリングがあまり動かないような状況が続くと、たとえステアリングを握っていても警告メッセージが出てしまっていたが、改良型ではそれが改善されたというわけ。地味ではあるが、長距離移動などでの使い勝手はさらに高まったと言えるだろう。なお、2020年の一部改良でインフォテインメントや安全運転システムはすでにアップデート済み。「ハイ、メルセデス」で起動するMBUXも標準で備わっている。



排気量を感じさせない完成度の高いパワートレイン

それにしても、最新パワートレインの高効率ぶりには舌を巻く。ディーゼルターボとはいえ、全長約5mの巨体をわずか排気量2Lで軽々と加速させるし、その際にも不躾な振動や騒音を聞くこともない。燃費性能もWLTCモードで16.4km /L(エクスクルーシブパッケージ装着車)と優秀で、燃料が軽油であることを考えればランニングコストも上々といったところ。別の機会に試乗することができた「450 4MATICスポーツ」もスムーズかつパワフルで非常に魅力的なパワートレインであったが、費用対効果を鑑みると「220dスポーツ」の満足度はかなり高いだろう。
そういった好印象を影で支えているのが、エクスクルーシブパッケージに含まれる「AIR BODY CONTROLサスペンション」。通常時には極めてしなやかな乗り心地を提供してくれるし、モードを切り替えれば引き締まったスポーティな俊敏さも提供してくれる。スポーティといっても、絶対的な乗り心地は保たれたままなので、これなら助手席からクレームが来る心配もないだろう。
CLSクーペの魅力は美しいスタイリングにある。だが、その真価を味わうにはやはりステアリングを握ってもらうほかはない。なぜなら、デザインと機能、スポーティさと快適性といった、相反する要素が非常に高い次元で両立していることこそ、このクルマ最高の価値だからだ。
メルセデス・ベンツ CLS220dスポーツ(9速AT)
■全長×全幅×全高:4995×1895×1425mm
■ホイールベース:2940mm
■車両重量:1860kg
■エンジン:直4DOHCディーゼルターボ
■総排気量:1949cc
■最高出力:194ps/3800rpm
■最大トルク:40.8kgm/1600-2800rpm
■サスペンション前/後:4リンク/マルチリンク
■ブレーキ前・後:Vディスク
■タイヤ前後:245/40R19・275/35R19
■新車価格:918万円-1189万円(AMGを除く)