新車試乗レポート
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2022.05.02
【ポルシェ タイカン】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】
文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス
欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急進。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、新しいEVが続々と登場&上陸している。そうした情報を耳にし、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も案外多いのでは?
とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのがまだまだ難しい。
本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。
今回採り上げるのは、ポルシェ初の量産EVである「タイカン」のエントリーモデル。後輪駆動を採用するベーシックなタイカンは、どんな魅力を備えているのだろうか?
ポルシェ タイカンのプロフィール
2021年、ポルシェは創業後初めて、世界販売台数が30万台を突破した。倒産の危機にあった1990年代前半の販売台数は3万台規模だったというから、30年で約10倍の規模に復活&成長したことになる。
その原動力となったのは、隆盛を極めるSUVシリーズであることは間違いない。「カイエン」や「マカン」といったポルシェのSUVは世界中のマーケットで大ヒット。今やポルシェの屋台骨を支える存在となっている。
しかし2021年のデータには、過去数年のそれとは異なる変化が見られた。何しろ、2020年に登場したポルシェ初の量産EVであるタイカンが、30万台のうちの13%強に相当する4万1296台のセールスを記録したのである。ちなみに、「911」シリーズのそれは3万8464台だったというから、すでにタイカンはポルシェの看板モデルを上回るヒット作となったのである。
タイカンは、アウディ「e-tron GT クワトロ」やそれをベースとする高性能モデル「RS e-tron GT」と同じ、EV専用の高性能プラットフォーム“J1”を採用する。それもあってか、4ドアのグランツーリスモらしいエモーショナルなフォルムは、アウディの2モデルに通じるものがある。
タイカンには、前後の車軸にそれぞれ1基ずつモーターを搭載した「4S」、「GTS」、「ターボ」、「ターボS」という4WDモデルと、リアモーターのみの後輪駆動仕様であるベーシックモデルがラインナップされる。今回の試乗車は後輪駆動となる“素”のタイカンで、フロア下にレイアウトされるリチウムイオンバッテリーの総容量は79.2kWhが標準だが、試乗車には2デッキ方式となる“パフォーマンスバッテリープラス”がオプション装着され、93.4kWhへとアップグレードされていた。
標準バッテリー仕様は最高出力326ps(ローンチコントロールとオーバーブーストモード使用時は408ps)を発生するが、“パフォーマンスバッテリープラス”仕様では380ps(ローンチコントロールとオーバーブーストモード使用時は476ps)に強化される。ちなみに最高速度は230km/h、ローンチコントロールとオーバーブーストモード使用時の0-100km/h加速は5.4秒をマーク。航続距離は、WLTPモードで標準バッテリーが最大431km、“パフォーマンスバッテリープラス”仕様が最大484kmとなる。
大容量バッテリー搭載のEVは充電時間の長さが気になるが、タイカンは225kW(“パフォーマンスバッテリープラス”仕様は270kW)までの急速充電に対応。さらにインポーターであるポルシェジャパンは、アウディジャパンと共同で日本国内の急速充電器ネットワークを共有する“プレミアムチャージングアライアンス”を発表しており、2022年7月から、2社合わせて全国102基の150kW急速充電器を相互利用できるようにする。ユーザーの利便性を高めるこうしたインフラ整備についても、ポルシェジャパンは積極的だ。
タイカンのボディサイズは全長4963mm、全幅1966mm、全高1395mm。ホイールベースは2900mmと長いこともあり、キャビンは大人が快適に移動できる空間に仕立てられている。ラゲッジスペースはフロントに84L、リアに407L分を確保する。
ドライバーの正面に16.8インチの湾曲したディスプレイが鎮座するコックピットは、ポルシェ車の最新フェーズを踏まえたもの。ドライバーを低い位置に座らせるドライビングポジションは、グランツーリズモならではの仕立てだ。
デビューするやいなやスマッシュヒットを記録しているタイカン。そのベーシック仕様である“素”タイカンは、よりハイパフォーマンスな4WDモデルとは異なり、ポルシェらしいバランスのとれた軽快な走りが魅力的である。ポルシェが手がけたEVは、ポルシェらしさが随所に垣間見える注目すべき存在だ。
■グレード構成&価格
・「タイカン」(1203万円)
・「タイカン4S」(1462万円)
・「タイカンGTS」(1807万円)
・「タイカンターボ」(2037万円)
・「タイカンターボS」(2468万円)
■電費データ
◎交流電力量消費率
・WLTCモード:非公表
>>>市街地モード:非公表
>>>郊外モード:非公表
>>>高速道路モード:非公表
◎一充電走行距離
・WLTPモード:431km
ハイパフォーマンスモデルとは思えない優秀な電費を記録
2020年に日本上陸を果たしたポルシェ・タイカンは驚異的なハイパフォーマンスが話題だったが、いまでは多くのバリエーションが用意され、EVテストに連れ出したのはもっともベーシックなRWDのタイカン。バッテリー容量は標準のパフォーマンスバッテリー仕様で79.2kWh、一充電走行距離は354~431kmだが、試乗車はオプションのパフォーマンスバッテリープラス仕様で、93.4kWh、407~484kmとなっている。興味深いのはパフォーマンスバッテリープラス仕様になると車両重量が増える分、パワーを上げて0−100km/h加速などを揃えていること(100km/h以上の加速性能は差がある)。上記はいずれも欧州仕様の数値で、日本のWLTCモードに超高速モードが加わるWLTPモードなので辛めになる。WLTCモード電費は非公表だが、WLTPモードでは23.9-19.6kWh/100kmなので、概ね5km/kWh弱といったところだ。
高速道路での電費は制限速度100km/h区間であるその1が5.6km/kWh、その4が6.3km/kWh、制限速度70km/kWh区間のその2が6.1km/kWh、その3が5.9km/kWhだった。同日テストのヒョンデ・アイオニック5とかなり近い数字なのは立派。SUVよりも前面投影面積が小さいこと、比較的に軽量なことが効いているのだろう。この日はその4が混雑気味で流れが悪くなっていたので、電費は良く出てしまっているが、その1は制限速度100km/h区間の標準的か、少しいいぐらいの数値だと見ていいだろう。
同じプラットフォームを使うアウディe-tronGTはその1が3.7km/kWh、その4が4.9km/kWh、制限速度70km/kWh区間のその2が4.5km/kWh、その3が4.9km/kWh。こちらはAWDでタイカン4S相当といったところだが、やはりRWDのベーシックなモデルのほうが電費ではだいぶ有利なことがわかる。
車重の近しいモデルと同等のデータを記録
約13㎞の距離で963mも標高差があるターンパイク登りは電費に厳しい区間だが、タイカンは1.4km/kWhだった。これまでのEVテストでも車両重量2000kgオーバーの重量級は1.3~1.5km/kWhなので標準的な数値。この区間は制限速度50km/hなので空力性能の影響は少なく、低全高なセダンやスポーツモデルと背の高いSUVやミニバンなどとの差はあまりない。車両重量の影響がもっとも大きいはずだ。
下りでは3.79kWh分の電力が回生で取り戻せた。メーターに表示されるバッテリー残量は33%から38%へ、航続可能距離は118kmから136kmへと回復。回生に関してはAWDのほうが有利かと思いきや、アウディe-tronGTは3.31kWhだったのでタイカンのほうが上回ったことになる。
車重から考えれば優秀なデータとなった
一般道での電費は4.5km/kWhでオーバー2000kgのモデルのなかでは優秀なほうだ。ちなみにe-tronGTは3.6km/kWh。このプラットフォームのモデルのなかでは比較的に軽量なことが功を奏したのだろう。
同日テストのアイオニック5は6.5km/kWh。高速道路では互角だったが一般道では少し差をつけられた。とはいえ、もともとのモード電費からしてアイオニック5は7.02km/kWhと約3割ほどいいので順当なところ。むしろタイカンは高速道路が優秀であり、さすがはアウトバーンがあるドイツ生まれといったところ。EVとしては珍しい2速ギアを採用しているので高速域が得意というのも効いたのだろう。高速道路を走る頻度が高いのなら、SUVよりも電費が有利な低全高スタイルで、シリーズのなかでも足の長い素のタイカンのパフォーマンスバッテリープラス仕様はベストチョイスと言える。
理論値に近い充電効率を計測。グランドツアラーとしての優れた資質を感じさせた
スタート地点の東名高速・東京ICではバッテリー残量81%、航続可能距離368km。そこから161.9km走った復路の海老名サービスエリアでは41%、158kmだった。出力の高い90kWの急速充電器を30分間使用して38.9kWhが充電され84%、357kmまで回復した。終了時は充電が絞られていく80%を超えていたが、80kWほどの出力が安定して出ていて、理論値45kWhに対して十分な電力を得られた。
ちなみに同じバッテリーで同じ90kWの充電器を使用したときにRS e-tron GTは39.2kWhと十分だったが、e-tron GTは25.5kWhしか充電されなかった。充電開始時のバッテリー残量はそれほど差がないが、影響があると考えられるのは外気温。タイカンは18℃、RS e-tron GTは8℃、e-tron GTは0℃。e-tron GTはとくに充電開始直後は出力が上がらなかったので寒いと絞られるのだろう。
ポルシェ タイカンはどんなEVだった?
日本上陸から1年半近くが経っているタイカンだが、EVテストに登場するのは今回が初。ベーシックで電費に有利そうなRWDをテスト車両とすることができて、実電費も期待値以上だった。スポーティでハイパフォーマンスなことにフォーカスがあたりがちだが、グランドツアラーとして電費および充電性能で優秀なことが確認できた。実際に運転してみてもポルシェに期待する動的質感が見事に表現されている。レスポンスの良さで最高のドライバビリティを約束し、しかも動きが洗練されているのでゆっくり流していても心地いい。
90kWの高出力タイプの急速充電器が普及すればかなり使い勝手もいいはず。ポルシェのディーラーでは将来的には150kWを整備、当面は90kWを設置するそうだ。車両側の受け入れ能力の上限は270kWまで対応している。理論値なら電費5km/kWhで675km分が30分で充電できるので、そこまでいけばエンジン車とほとんどかわりのない使い勝手だろう。車両側は準備できているが、充電器側が追いつかないといったところだ。ただし、出力を上げるほどに冷却が必要になってエネルギーロスも増えるというジレンマはある。
タイカン(パフォーマンス バッテリープラス装着車)
■全長×全幅×全高:4963×1966×1395mm
■ホイールベース:2900mm
■車両重量:2130kg
■バッテリー総電力量:93.4kWh
■モーター定格出力:200kW
■システム最高出力:476ps
■システム最大トルク:36.4kgm
■サスペンション前/後:ウイッシュボーン/マルチリンク
■ブレーキ前後:ディスク
■タイヤ前/後:225/55R19/275/45R19
取材車オプション
■ボディカラー(ドロマイトシルバーメタリック)、レザーフリーインテリア(グラファイトグレー)、“PORSCHE”ロゴLEDドアカーテシーライト、モデル名(ハイグロスブラック)、リア2速ミッション、エレクトリックスポーツサウンド、パフォーマンスバッテリープラス、スポーツクロノパッケージ(モードスイッチ含む)、19インチ“タイカンS”エアロホイール、ブラックPORSCHEロゴ付きライトストリップ、アクティブレーンキーピング、4ゾーンクライメートコントロール、4+1シート、アンビエントライト、コンフォートシート(14ウェイ電動調節、メモリーパッケージ)、前後シートヒーター、グラファイトグレーシートベルト、アルミニウムロンバスインテリアパッケージ、モバイルチャージャコネクト