新車試乗レポート
更新日:2022.05.27 / 掲載日:2022.05.20
【試乗レポート 日産 サクラ】ゆとりと上質さはデイズと別物! 電気の世界を広げる軽EV

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
正直に言うと、公開された実車を目にして心の底からビックリしましたよ。えええっ、こういうデザインなの?見た目が「デイズ」と全然違うじゃん!……と。日産の新型電気自動車「サクラ」のことです。
デザインの独自性が高い「サクラ」。ベースとなった「デイズ」とはほぼ別物

サクラは軽自動車で、ベースはガソリン車として売っているデイズで……と予備知識を持って新車と対面したわけですが、ひとあし早くプロトタイプが公開された兄弟車の三菱「eKクロスEV」がガソリン車とほぼ変わらないスタイルだったこともあって、「日産もきっと同じだよね」なんて思っていたわけです。でも、そうじゃなかった。三菱と違って日産はスタイリングを電気自動車専用とし、どのくらい違うかといえば「窓ガラス、サイドミラー、そしてドアハンドル以外は専用」というからおもいっきり想定外。つまり装備部品はほぼすべてがデイズとは異なるサクラの専用設計だということ。ルーフパネルまで違うのだとか。
……なんて書くと、「2年半前の東京モーターショーに出展した時からデイズとは違うデザインだった」という人もいるかもしれない。それはわかります。でも、あの時はあくまでもコンセプトカーだった。だから市販する際にはデザインをどこまで反映されるかは読めなかったわけですが、結果からいえば市販モデルもあのデザインをしっかり踏襲し、車体のベースになっているデイズとは全く違う姿をしているというわけです。
インテリアはどうなのか?
外観以上に違うインテリア。上質さは軽自動車のレベルを超えている

実はこれまたデイズとは全く違う。その差はトリムの仕立てが違う……なんていうレベルじゃなく、インパネの造形からして全く別物。ドアトリムも別物。ここまで変えてくるなんて、まったくもって想定外でした。ついでにいうと、インパネやドアトリムにファブリックを張り、上級仕様ではカッパー色のアクセントを入れるなど上質感も軽自動車のレベルを大きく超えちゃっています。凄い!






本格的な電動化時代にむけてより多くのひとに向けて作られた「サクラ」

そんなサクラの概要を整理しておくと、まずポイントは日産初の量産軽EVだということ。たしかに日産はかつて「ハイパーミニ」という軽EVを市販したことがありますが、あれは実験的な少量生産車だったので一般的ではなかった。多くの人に向けた軽EVという意味ではこのサクラが初めてのモデルというわけです。
サクラはプラットフォームも含めてメカニズムのベースはガソリンエンジンを積む軽自動車のデイズですが、冒頭で書いた通り外観、そしてインテリアもふくめて見える部分は専用デザインになっている。バッテリーは床下に搭載するけれど後席足元の床が高くなるなど居住性の悪化だってないのは見事ですね。実用性でデイズに対して劣っているのは荷室の床下収納が減っていることですが、これはバッテリー搭載云々ではなく、リヤサスペンションを変更しているから。リヤサスペンションは、形式上はデイズの4WDモデルと同じ「トルクアーム式3リンク」だけど、重量増に合わせて部品単位では全く違う設計になっているのです。
つまり、車体の基本設計こそデイズだけど、実は全く違うクルマといっていいでしょう。
そんなサクラは、走りもデイズとはまったく違うもの。まず加速が滑らかで力強い。それは電気自動車だから当たり前のことだけど、運転してみると「モーターって凄いな」と改めて感じます。特に軽自動車はパワー不足が否めないので幹線道路などでの加速時はアクセルを踏み込み気味になることが多く、正直言って動力性能はあまり余裕がありません。だけどサクラは最高出力が軽ターボ車と同じ64ps、そして最大トルクは軽自動車ターボエンジンの約2倍の195Nmもあるから、加速なんてスススッと前へ出ていくから軽自動車とは思えないゆとりです。そう「ゆとり」がこのクルマのキーワードとなるかもしれませんね。走りも、内装の仕立てと上質感も。
そのうえ、予想をはるかに超えていたのは乗り心地とか操縦安定性。車体が強靭だから路面段差に起因する入力をしっかりと吸収し、ハンドル操作に対する反応の落ち着きとか、旋回中の安定感もなかなかのもの。ガソリンエンジンを積んだ一般的な軽ハイトワゴンとは全く違う感覚なのですから、この乗り味はなんとも衝撃的です。
そのうえ音は静かだし、快適性もすごく良い。軽自動車の概念を覆すというか、サイズとそれに伴うランニングコストの安さ以外は軽自動車を意識する必要はないと思いました。
セカンドカーとしての使い方を前提にしているがファーストカーとしてもアリ!

気になるEVとしての実用性はどうか。航続距離はWLTCモード計測で最大180km。これは昨今の電気自動車として控えめですが、車両価格とのバランスを考えてシティコミューターとしてバッテリー積載量を最適化したから。ファーストカーとしてロングドライブに使うのではなく、日常の足として近距離移動のために使うというのがこのクルマの狙いなのです。郊外に住んでいて、ファーストカーは別にある複数台所有の家庭が毎日の足として活用するのが正しい使い方と言っていいでしょう(そういう使い方で毎日100kmも走るような人は少ないはず)。
もしくは、ロングドライブはレンタカーやカーシェアを活用するのを前提に、都会暮らしの人がファーストカーとして所有するのもアリかもしれませんね。
充電時間は、普通充電でバッテリー残量警告灯が点いた状態から満充電までで約8時間。帰宅してケーブルをつなげば、朝までに充電完了です。
急速充電は同じ状態から約8割までもっていくのに、約40分。ただし、バッテリーの残量によっては「リーフ」や「アリア」など大型バッテリー搭載モデルに対して充電受け入れ電力量が落ちてしまい、時間課金制の急速充電器では利用料が割高になることも想定されます。そんなことも踏まえ、サクラを所有するなら自宅に充電環境があることが好ましいでしょう。普通充電器は、一戸建てであれば簡単な工事と十数万円ほどの費用で設置できます。
気になるグレード&価格は、ベーシックな「S」が233万3100万円、中間の「X」が239万9100円、そして最上級「G」の294万300円の3タイプを設定。いずれもバッテリー搭載量など基本メカニズムは同じで、内外装の装備仕立てで差別化しています。あくまで参考情報ですが、2022年に購入する場合は国からの補助金が55万円、さらに東京都など地方自治体によっては最大で50万円を超える補助金も上乗せされるので住んでいる場所や条件によっては実質130万円ほどと軽自動車を超えるほどのコストパフォーマンスも見逃せないところ。「電気自動車なんて違う世界の乗り物」なんていう先入観を持たず、検討してみる価値は大アリでしょうね。
そしてもうひとつ、このサクラの使命として重要なのは、日産においてハッチバックのリーフ、SUVでハイパフォーマンスのアリア、そしてリーズナブルで車体の小さなサクラと選べるEVの種類を増やしたことでしょう。価格だけでなく、使う環境によって複数のEVのなかから選べるようになってきたということです。それは、EVが普及していくうえでとても大切なことなのです。