新車試乗レポート
更新日:2022.05.26 / 掲載日:2022.05.26
【先行試乗レポート ホンダ新型ステップワゴン】これが「ミニバン」のプライドだ

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス
いよいよホンダの主力ミニバンであるステップワゴンが、正式発表となった。これまでの流れを振り返ると、今年1月上旬には、オンラインジャパンプレミアと共にプレサイトをオープン。さらに東京オートサロン2022では、新型のカスタマイズカーもお披露目され、登場までの期待を膨らませてきた。
3ナンバーサイズに進化。しかし価格帯は維持した

6代目となる新型は、現行型同様、ハイブリッド「e;HEV」と1.5Lガソリンターボの2本立て。前輪駆動車が基本となり、ガソリン車では4WDも用意される。グレード構成は、シンプル化され、標準車「AIR」とカスタム車「SPADA(スパーダ)」に加え、上級仕様車として、「SPADA PREMIUM LINE(スパーダプレミアムライン)」を加えた3タイプに集約。SPADA PREMIUM LINEのみ7名乗車仕様となり、他グレードでは、7人乗りと8人乗りの選択が可能。大きなトピックのひとつが、ボディサイズが全車3ナンバー化されたこと。AIRのFWD車の場合、全長4800mm×全幅1750mm×1840mmとなり、SPADAのFWD車では、全長が4830mmまで拡大されている。新価格については、2,998,600円~3,846,700円となった。ちょっとエントリーこそ上昇したが、全体的には、現行の価格帯に収まっているようだ。
先行試乗で感じられた新型の印象とは

新型は、グランドコンセプトとして「#素敵な暮らし」を掲げている。つまり、より生活を楽しく充実させるクルマが目指されたわけだ。その魅力を探るべく、4月下旬に開催されたメディア向け事前説明会に参加。限られたシーンと時間ではあったが、新型ステップワゴンを走らせることもできた。
そこで感じた新型の特徴は、「温かみのあるデザイン」、「フル活用できる3列シート」、「爽快な走り」の3つに集約されると思う。まずはデザインだ。新型ステップワゴンは、人気のカスタムモデル「SPADA」は、歴代モデルが磨き上げてきたカッコ良さとスポーティさを重視したスタイリングに纏められている。新型の迫力もなかなかのものだ。

もうひとつは、これまで同様の基本となる標準車だが、「AIR」というサブネームを与えられた。先代ではSPADAの陰に隠れていた標準車だが、それに並ぶ存在であることを示す意気込みでもある。そのAIRは、ミニバンスタイルの主流である押し出し感あるデザインを追わず、敢えて優しい顔立ちと丸みを帯びたフォルムから漂う愛らしさを備える。その雰囲気は、ちょっと柴犬ぽくもある。まさにミニバン界の“ゆるキャラ”だ。チーフエンジニアの蟻坂氏が、「流行りを無視したデザインとするのは、大きな決断だった」とまで悩んだというAIRのデザイン。先代となった5代目の標準車も癒し系デザインであったため、再挑戦へのためらいもあったのだろう。しかし、そこには初代ステップワゴンが追求した家族や仲間と過ごす時間を楽しくするクルマという価値を現代にフィットするように再定義するという想いも込められている。だから、あの頃のステップワゴンと再会したような懐かしさを覚えた人もいることだろう。


インテリアデザインも、全体的に丸みを帯びた優しい造形だ。車内を見渡しても、ほぼ角がない。もちろん、ダッシュボードやドアトリムなどは直線的にデザインされているのだが、極めてラインはソフト。その優しい空気感が、リビングのような寛ぎを生む。各部の触感も良好だ。それでは、SPADAの尖がった世界観も薄まってしまったのではと不安を覚えるかもしれないが、その点も抜かりはない。曲線を活かしつつ、デザインやカラーリングを変化させることで、そのストイックな世界観をしっかりとキープ。SPADAファンを失望させるなんてことはないので、ご安心を……。そのナイト&デイのような差別化を可能としたのは、ヴェゼルやシビックなどの最新型モデルで力を入れる質感を重視したインテリア作りにあり、この点は、ホンダの新たな武器へとなろうとしている。





二つ目は、「フル活用できる3列シート」だ。多人数乗車が特徴でもあるミニバンにとって、当たり前の事のようだが、現実は少し異なる。核家族化の現代では、多くのシーンで、1列目と2列目のみが使われる。3列目といえば、ラゲッジスペースの役目を果たすことも多く、乗員が収まるシーンは限定される。さらに5ナンバーサイズをベースに開発されるミドルサイズのミニバンだと、ゆとりのあるラージミニバンとは異なり、室内スペースにも限界がある。そのため、2列目シートまでの快適性が重視され、3列目は非常席として扱われるケースも一般的。そのため、3列目シートは外れ席というイメージが強い。その常識を打ち破ることに挑戦したのが、新型ステップワゴンなのだ。進んで座りたくなる場所を目指したという3列目シートに座ってみると、キャプテンシートの2列目と比べれば、シートバックのクッション性や自由度こそ負けるが、座面は肉厚でしっかりしており、座り心地もなかなかのもの。何よりも視界が良く、まるでバスの最後部席のような雰囲気なのだ。子供の頃に、憧れた観光バスの特等席を思い起こさせる。ひょっとすると、子供たちが一番座りたくなる席になるかもしれない。その視界の良さは、全周のガラスエリアの広さに加え、シート配置を階段状とし、3列目が一番高くなっていることにある。まさにバス的なのだ。





3つ目の「爽快な走り」とは、限られたシーンではあったが、私が新型ステップワゴンの走りで感じた率直な印象だ。「爽快」とは気持ちの良さを意味するものだが、今回はスポーティな走りという意味ではなく、運転のし易さによる快適さを指すものだ。広いガラスエリアと直線的で低く配置されたダッシュボードの恩恵では、運転に必要な視界に優れており、スクエアなボディデザインは、取り回しの際に気になる車両の四隅や前後の長さなども掴みやすい。さらに滑らかなステアリングフィールとモーターによる滑らかな加速、操作に対して違和感のない一体感あるボディの動きが、どのシートポジションでも快適な移動を楽しませてくれるのだ。移動中の快適さを検証すべく、運転席、2列目のキャプテンシート、3列目のベンチシートと全てのポジションを試したが、いずれも乗り心地は良好であった。まさに全席が主役。ここはワイドボディ化が貢献している部分だ。ただ取り回しなど運転の間隔に、サイズアップの影響を感じることはなかったことも付け加えておきたい。今回は、ハイブリッド「e:HEV」のみなので、国産ミニバン唯一のターボとなるガソリン車の走りにも興味津々だ。
ミニバンを選ぶユーザーをとことん考えたフルモデルチェンジ

新型ステップワゴンは、既存のミドルサイズのミニバンが持つ価値観のブレイクスルーを目指し、敢えて3ナンバーのワイドボディとした。しかも全長もライバルを上回る。この点は、コンパクトミニバン「フリード」との差別化を図り、より大きなミニバンを選ぶ人たちのニーズに応える工夫でもある。そして、オデッセイの生産終了を受けて、上級ニーズを受け止める「SPADA PREMIUM LINE」も新設している。しかし、サイズが成長しても、歴代モデルの5ナンバー間隔を維持しており、誰しもが扱い易く、そして乗る人全てが快適なミニバンに仕上げられていると感じた。その心意気には、ファミリーカーの座を狙い台頭してきたSUVには、まだまだ負けないぞというミニバンのプライドの表れでもあるのだろう。まだ今回の取材では、新型ステップワゴンのエピローグに過ぎないが、私の好奇心を掻き立ててくれた。ファミリーや趣味人などのミニバンユーザーたちにとって、新型ステップワゴンは、一見する価値があるモデルであることは断言して良さそうだ。