新車試乗レポート
更新日:2022.06.01 / 掲載日:2022.06.01
【試乗レポート スバル レヴォーグ STI SPORT R】最高峰の価値はあるか
文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス
国産唯一のスポーツワゴンとして不動の人気を誇るスバルレヴォーグは、昨年末、現行型初となる年次改良を受けた。このタイミングで、サンルーフの選択が可能となったのは、初代同様だが、最大の目玉は、待望のハイパワーバージョンとなる2.4Lターボモデルが発表されたことにある。
「走りのスバル」への期待に応えるハイパワーモデル
初代レヴォーグでも、普及タイプの1.6Lターボとハイパワータイプの2.0Lターボが展開され、いずれも標準グレードとSTIスポーツの選択ができた。しかし、2代目となる新型レヴォーグでは、先代モデルのエンジンラインアップの中間となる1.8Lエンジンに集約され、看板モデルに成長を遂げた「STIスポーツ」も最初から設定されるなど、異なる展開をみせた。1.6Lの扱いやすさを受け継ぎつつ、トルクアップを実現した1.8Lターボの新レヴォーグは、新世代プラットフォーム「SGP×フルインナーフレーム構造」による高剛性ボディと相まって、その走りは洗練され、大人のスポーツセダンへと成長を遂げていた。このため、1.6Lエンジンのレヴォーグの乗り換えやスポーティなワゴンを求む人たちからは、大きな支持が得られたと思う。その一方で、2.0Lエンジン車の持つ力強さや刺激的な走りが影を潜め、WRXのワゴン版という感覚でいたファンを、少しがっかりさせたのではないだろうか。私自身、先代WRX STIに乗っているため、1.8LのSTIスポーツの走りの気持ち良さは支持しつつも、もう少しのパンチの効いたヤンチャな新レヴォーグがあればと感じていた。
そんな気持ちを見透かすように、昨秋に現れたのが、2.4Lエンジンを搭載した新グレード「STIスポーツR」だ。グレード名からも分かるように、新エンジンは、STIスポーツのみに搭載される。それは新型WRX S4と同じFA24型と呼ばれるスバルエンジンラインのフラッグシップであり、2.4Lの水平対向4気筒DOHC直噴ターボとなる。最高出力275ps/5600rpm、最大トルク375Nm/2000~4800rpmを発揮する。他モデルに搭載される1.8LターボのCB18型ターボは、最高出力177L/5200~5600rpm、最大トルク300Nm/1600~3600rpmなので、その性能差は決して小さくない。
まず仕様の違いも見ていこう。意外にも、1.8Lターボの「STIスポーツ」と2.4Lターボの「STIスポーツR」のビジュアル面の違いはない。例えば、タイヤの銘柄とサイズまで全く同じなのだ。これは先代のSTIスポーツに準ずるもので、STIスポーツの世界観を統一しているのだ。「R」の名が冠されただけに、この事実は、ちょっとがっかりポイントかもしれないが、当然、メカニズムは異なる。最大の違いが、AWDシステムの差だ。1.8Lターボ車は、アクティブトルクスプリットAWDに対して、2.4Lターボ車は、VTD-AWDとなるのだ。簡単に説明すると、アクティブトルクスプリッドAWDは、前後の基本的な駆動配分を6:4とする。つまり前輪側が強いので、直視安定性重視した設定なのだ。もちろん、走行状況に応じて、前後のトルク配分を変化させるので、シャープなコーナリングも得意とする。STIスポーツRにだけ使われる「VTD-AWD」では、前後の基本的な駆動配分が、45:55となり、やや後輪側に振ってある。後輪側を強めることで、FRのような後ろからグイグイ押し出すコントロール性の高いコーナリングを得意とする。つまり、よりアクセルワークによる走りの差が楽しめる仕様なのだ。さらにトランスミッションは、新型WRX S4にも採用される「スバルパフォーマンストランスミッション」を搭載。機構上はCVTなのだが、エンジンとの協調制御を最新化した「スポーツ変速制御」を取り入れていることが大きな特徴だ。通常時は、スムーズなCVTなのだが、ドライブモードで、「S」及び「S#」を選ぶと、8段変速に固定され、強い減速時には、エンジンのブリッピングで可能となる積極的なダウンシフトを行う。もちろん、シフトアップのタイミングも調整され、加速重視となる。つまり、今までのスポーツCVTを超えるスポーツ走行に適した仕様になっているのだ。このAWDとCVTの違いこそが、WRX譲りの機能であり、「R」を名乗る理由なのである。
1.8Lターボとの違いをチェック
その差は、やはり加速の差として表れる。滑らかな1.8Lターボの加速と比べると、やや暴力的でパンチもある。その加速の良さには、WRXと兄弟であることを意識させ、さすがはスバルのハイパフォーマンスワゴンだと実感させる。パワーアップの関係から、足回りも強化されているようで、載り心地も、ややハードセッティングだ。ただ新型レヴォーグには、キャラ変システムと呼ばれる電子制御ダンパーを含む「ドライブモードセレクト」が備わるので、その内より「コンフォート」を選べば、乗り心地はソフトに振られる。但し、1.8Lターボ車と比べると、まだ硬い味付けだ。私の体感では、STIスポーツの持ち味であるキャラ変の幅は、2.4Lターボよりも1.8Lターボ車の方が大きい。このため、システムが可能とする高級車からスポーツカーまでのキャラ変の違いを味わいたいならば、1.8Lターボの「STIスポーツ」の選択がおススメとなる。また今回の試乗コースには、ブリッピングによるダウンシフトまでを試すことは出来なかったが、パワーがあるが故、当然、アクセルを踏み込める時間も制限される。正直、モアパワーを感じるシーンもあるが、公道でも使い切れる1.8Lターボは、エンジン性能を引き出し、ワインディングを駆る快楽がある。これはボディとエンジンの関係で、ボディが勝っているため。そのゆとりも2.4Lターボでは、より縮まる。もちろん、腕に覚えがある人は、2.4Lターボでしか得られない世界も見えてくるだろうが、万人向けなのは、1.8Lターボの「STIスポーツ」だ。
こだわり派のための1台
結論として、STIスポーツシリーズを選ぶなら、1.8Lターボと2.4Lターボの乗り比べることをお勧めしたい。性能差だけでなく、そもそも「STIスポーツ」と「STIスポーツR」には、約70万円の価格差がある。最高潮の「STIスポーツR EX」となれば、車両本体価格は、500万円に迫る。その対価に値するかは、オーナー候補者には、ぜひ肌で感じて欲しいのだ。そもそもレヴォーグはGT系の完成度も高く、どれを選んでも良い選択になるが、「STIスポーツ」に拘りたい人も多いだろう。そこでエントリーの「GT」と「STIスポーツ」の価格差を見てみると、約60万円。STIスポーツRとなれば、その倍以上の差となる。そうなると「STIスポーツ」は急にお買い得に思えてくる。さらに1.8Lターボは、レギュラーガソリンに対して、2.4Lターボは、ハイオクガソリンとなる。まさに「STIスポーツR」は選ばれし者の拘りの逸品という存在なのだ。
そうなると、今回のモノグレード化も納得できる。STIスポーツRは、そんなスバルユーザーのニーズと心理を踏まえた上で成立させているのだから、スポーツワゴンとして唯一生き残れるのも納得できる。ただスバルが「STIスポーツR」を積極的に売りたいならば、見た目でも「R」を名乗る差別化を図るべきではないか。スバルラインアップでも最上級となる価格だけに、より特別なスバルに乗っているという演出があっても良いのではと思う。それが、一スバルユーザーとしての素直な本心だ。