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故障・修理
更新日:2019.03.08 / 掲載日:2019.03.08

W123復活大計画 「下回り総チェック&バルブボディ点検」Vol.15

今月の作業レシピ

下回り総チェック
バルブボディ点検


衝撃の延長戦に突入した、ハリー山崎のW123メンテ。今号でベンツちゃんは“ハズレ個体”ではなく“大不運の持ち主”であることが判明しました。詳細はぜひ誌面にて。ハリー氏は気にしてませんが、なかなかシンドイ状況になってきました……。

1977年式 幸せの黄色いベンツちゃん復活大計画【Vol.15】 

ベンツちゃん=Mercedes-Benz 300D(W123)

ミッション本体は問題なさそう やはり“作業ミス”が原因か?

 後退時にガクンガクンと断続的に鳴り続ける謎の振動。これが新たに発覚してしまったトラブルだ。音からするとAT内部の多板クラッチが誤作動しているような気がするが、いずれにせよかなりのオオゴト。さらにNレンジでも、微かにクルマが前に進もうとする。
 本来ならば、さらに走ってみて原因探求を進めるべきだが、悪化する未来しか見えないので省略。ただ、このベンツのミッションは、北米で購入した時に現地の腕利き整備工場にてリビルト済みだけに、ATユニットに問題があるとは……。おそらく例によって例のごとく、ボクが行ったエンジンOH作業中に、“いじり壊してしまった”のだろう。
 そう考えると怪しいのは、シフトロッドの誤組み付けだ。今回は車上OHのため、エンジンはミッションが接続された状態で高く持ち上げられていた。その際、ATのシフトリンケージにも負荷がかかり、何らかの作業の際に曲げてしまい、本来のRとNレンジの位置が微妙にずれていたら……。そんな都合のよい仮説に希望を託して、下回り点検を行うことにした。

悩んでいるうちにガレージは本格的な冬に

試運転はしたいけど、症状がさらに悪化しては……と、悩んでいるうちに、雪の季節に突入。寒い季節のヘビーメンテは、避けたかった。

やはり原因は取り付け時の作業ミスか?

長年懇意にしているベテランメカニック「テッドさん」がリビルトしているので、ミッションに問題があるとは思えない。

車上エンジンOHを行うため、クロスメンバーとのクリアランスを確保するため、高く持ち上げたことが不具合の原因か?

エンジン持ち上げ作業中に、シフトリンケージやコントロールロッドに無理な力が加わり、“いじり壊した”可能性は否定できない。

喜び、束の間 普通の状態でした

シフトリンケージの曲がりの有無を確認するために取り外す。おお!曲がっていると喜んだが、車体に合わせた本来の形状でした。

切り離したATFクーラーホースから、ATFに微細な異物が混入しバルブボディ内部のオリフィスに詰まった可能性も……。

冬は乗らないつもりだけど いい機会だから手動ヒーターをチェック

 オートエアコンの制御バルブは、錆で完全に朽ち果てていたので、ベンツをアメリカで所有していた前オーナーは、制御バルブは取り外して、写真のような手動コントロールスイッチに換装していた。
 ディーゼルゆえに水温の上昇はゆっくり気味で車内が暖まるまで時間はかかってしまうが、一旦水温が上がってしまえば、ノブを引くことで噴き出しエアの温度を自由自在にコントロールが可能。 念のため、今回その動作を確認してみたが、まったく問題なし。前オーナーの整備手法には関心できないことが多いのだが、エアコンまわりに関してはお見事といいたい。オリジナルにこだわらずに、信頼性を重視したシステムの構築は、パーツ入手が面倒な旧車にとっては、意味のある改造と実感。

ノブに繋がれたケーブルによって、ヒーターコアに繋がるLLC通路のバルブを開閉する仕組み。壊れようがないシンプルさが頼もしい。

リビルドATが不良個体? 衝撃の事実が発覚してしまった……

もはや、どれもが怪しい シラミ潰しに確認するしかなさそう

 最近のメンテとしては珍しく、どうやら自分がいじり壊したわけではなさそうだ。ホッと一息ついたものの、不具合の原因は依然として判明しておらず、最初からやり直しになってしまった。
 そこでATユニットのリビルドをお願いしたアメリカの整備工場に問い合わせをしてみたところ、どうやら同時期にリビルト修理をしたATの中に、製品不良を原因とした多板クラッチの剥離が発生し、保証修理を行ったケースがあったというのだ。そこで整備担当のテッドさんは長年懇意にしている人物ということもあり、メールで彼のアドバイスを受けながら、遠隔点検をすることにした。
 まずはリバース不良で不具合を起こしがちな場所の点検からスタート。上の写真の丸いカバーの内側にはRレンジ時に作動するピストンがあり、このあたりが泣き所。ピストンのシールとスプリング、そしてよく折れることがあるというブレーキバンドを押し付けるレバーの状態を確認し、さらにピストンの反対にあるアジャストボルトの緩みも点検したが、残念ながら異常なし。
 次の点検場所は、Rレンジ時に作動するバルブボディ内部のスプリングの状態。ここも念のため、確認したほうがいいそうだ。ただサラッと指示されたものの、個人的には憂鬱な作業。バルブボディはATユニットを降ろさなくてもアクセスすることができるが、複雑なバルブボディの分解は気が重い。バルブボディ内部の小さなスプリングやボールの位置を確認したり、製造年月による微妙な仕様変更の違いを確認するのは、なかなか大変。 ただ日米の時差のおかげもあって、夜に書いた質問メールでも朝には答えが返ってくるので、思っていた以上に作業効率はよい。数日、そんなやり取りが続いた後、ようやく、メールで怪しいと指摘されていた、テッドさんが工作した自作スプリングまでたどり着いたが、しっかりと交換されており、状態も良好。またもや問題は見つからなかったのだ……。

まずはブレーキバンドから見ていくことにする

丸いカバーの中にあるブレーキバンドを作動させるピストンと、反対の受け側のバンド調整ボルトの緩み点検を行う。

カバーを一旦押し込んで、大きなスナップリングを外すと、ピストンが飛び出てきた。シールやスプリングの状態は問題ない。

ピストン&レバーは問題なし

ドライバーの先で、ブレーキバンドを作動させるレバーを押して、異常を疑わせる引っ掛かりがないか神経を集中させて点検。

レバーストロークもちゃんと動くなあ~

作動ストロークは12mmでOK。内部のバンドを作動させるピンが折れるとストロークは倍増するが、問題なさそう。

バルブボディを外してみたが意外にもキレイな印象

バルブボディは簡単に取り外すことが可能だが、オイルで手が滑ってしまい落下。廃オイル処理箱の上にソフトランディングできた。

ミッション側は大丈夫そうだが……

クラッチの焦げた臭いやライニングが剥離した痕跡は確認できない。これは無理な試運転をしなかったことが大きいと思う。

覚悟を決めて、分解作業に進む

内部の点検は細かな作業の連続なので、暖かい家の中で集中してやることにする。家人の目が少々気になるが、前に進むしかない。

DIYの真骨頂 自作のボルトを挿入

バルブボディは、重箱のように重なっているので、分解・組み立て時にずれないように、自作のガイドボルトを2本作って取り付ける。

内部のボール、スプリングの位置やバルブの形状は、同じ形式のATでも製造年月日によって異なる場合も多い。記録が重要だ。

組み付け作業用にデジカメで状況を撮影

パーツを並べる時にも置き方を考えないと、組み付け時に混乱してしまうので注意。念のため、デジカメで撮影をしておく。

迷路のようなATF通路に目立った汚れはない。念のため、小さい穴やピストン可動部分はクリーナーで清掃する。

分解が進むにつれて、吹けば飛ぶようなボールの数も増えてきた。この状態でクシャミでもしたら一巻の終わり。

そこで、段ボールにセロテープで固定する方法に変更。ただ、ATFの臭いが想像以上にキツイ。家の中で作業したのは失敗だったかも。

怪しいと思っていたスプリングだが、まったく問題なさそう

このスプリングが破損するケースは多く、破損するとブレーキバンドの作動不良の原因になる。だが新品に交換済みで大丈夫そうだ。

パーツクリーナーで清掃し、拡大鏡で点検すると、チェックボールが装着される部分が腐食? でも解決策はないので無視して進める。

トラブルの原因はここ?

困惑の中、バルブボディを再組み付け どこが不具合の原因なのか?

ありがたや、プロのアドバイス ようやく問題箇所を発見!

 残念ながらスプリングやボールに異常はなかったが、バルブボディ内部の針の先ほどの穴に異物が詰まっていて、それがトラブルの原因になっているのかも? そんなことを考えながら、汚れにも注意し、バルブボディを組み上げた。
 ここで再びテッドさんにアドバイスを求めると、「バルブボディを装着する前に、念のためクラッチパック内部の多板クラッチの作動状態を確認したほうがベター」というメールが届いた。さっそく指示通りに、バルブボディからクラッチパックに通じる油圧経路に圧縮エアを入れて、音と多板クラッチの動きを確認してみる。すると前後にあるクラッチパックの作動音が微妙に異なることを確認。リヤ側のクラッチパックは、エア圧のオンオフで小気味よく「パコッパコッ」と音がするが、フロント側はエアをかけても内部のピストンがほんの少しだけしか動いていない。
 また、クラッチパックには小さな穴が全周に開けられていて、多板クラッチの動きを確認できるが、フロント側の多板クラッチの動きを観察してみると、12時の位置のクラッチは正常に動くが、6時の位置のクラッチはほとんど動かない。これは多板クラッチのライニングが剥離してしまい、片側で重なった状態になっているのかもしれない。再現性も高く、ここは明らかに怪しい。Nレンジでもベンツちゃんが前に動いてしまうのは、これが原因だろう。

まずは自作のリペアパーツを製作

まず、テッドさんに教わったように、バルブボディ組み付け作業用ツールを、ステンレス板を購入し自作してみた。

ボクの経年劣化に伴う記憶力低下は、指差し確認で補うしかない。分解時の画像と段ボールのパーツ配置をダブルチェック。

準備は万全。 いざ、メンテの泥沼へ(笑)

僅かな糸くずでも詰まりの原因になるといわれているので、高級ペーパータオルを使用。必要なコストは惜しみません。

ボールを装着しプレートを被せ、プレートを押しながらひっくり返す。右のバルブボディにずれないようにのせる、ワザが要求される。

スプリングの持ち上がりに注意

この段階では、スプリングの力でボールが上に押し上げられているため、ボールとスプリングは不安定な状態になっているので注意。

このバルブ&スプリングは、スプリングが長いため装着すると、バルブがプレートから飛び出た状態になる。そのため装着が難しい。

特殊工具を用いて、 自作パーツを装着

スプリング張力で飛び出たバルブを、最初に作ったコの字型自作ツールで、一時的に押さえておく。あるとないとで作業性が違います。

プラスチックピンを挿入

このピンは上下の向きは関係ないが、逆に装着できてしまうスプリングやプランジャーがあるので、本当に気が抜けない。

不具合箇所が見つからず、すっきりしない気持ちのまま最後のプレートを組み付ける。今のところ、作業ミスをしていないハズ……。

指で押さえているガスケット付きのトッププレートをひっくり返しながら、右のバルブボディに重ねる。ガスケットは再使用する。

とりあえず作業は一段落

バルブボディの各プレートを固定するボルトを締め付けたら、最初に取り付けた2本の自作ガイドボルトを抜き取る。

戻し残しがないことを再確認

徹底的な画像保存と段ボールにセロテープで固定した作戦は功を奏した。正しい位置にパーツは戻せたはずだ。

バルブボディを戻す前に 動作確認を行う

念のため、ブレーキバンドのクリアランスを目視点検。深刻なトラブルの原因がここではなさそうなのが救いだ。

バルブボディから供給されるATFは、2本のパイプを通って、それぞれのクラッチパックのピストンを作動させる。

うん、大丈夫そうかな。あれ……

油圧経路に圧縮エアを入れて、ピストンの作動状態の音と多板クラッチの動きを点検すると、前後のクラッチパックで作動音が微妙に異なるのだ。

クラッチの動きがおかしい ここが原因か?

次号予告
フロント側クラッチパック(K1)のクラッチが焼き付くと、Nレンジでも前に進む現象が発生するのでつじつまがあう。しかしリバースの不具合との関連はあるのか?

不具合の半分は見通しが立ったが全面解決するのは、まだまだ先になりそう……

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グーネットピット編集部

ライタープロフィール

グーネットピット編集部

車検・点検、オイル交換、修理・塗装・板金、パーツ持ち込み取り付けなどのメンテナンス記事を制作している、
自動車整備に関するプロ集団です。愛車の整備の仕方にお困りの方々の手助けになれればと考えています。

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