故障・修理
更新日:2019.07.10 / 掲載日:2019.07.10
ショックアブソーバーとは? 構造・役割・仕組みを解説
ショックアブソーバーはスプリングの振動を抑え、乗り心地を向上させるとともに、操縦性にも関わる重要なパーツ。水鉄砲のような単筒からスタートし、調整式も採用されるようになった。
ショックアブソーバーの基本形がこれ。オリフィスとバルブを内蔵したピストンがオイルを満たしたチューブの中を上下する。移動する時のオイル抵抗で、スプリングの上下によって発生するボディの動きを減衰する。
メインチューブの外周にもう一つのオイル室を設けたのがツインチューブ式。この部分がオイルの補助タンクの役割をしている。内部を仕切り、一方にガスを封入したタイプもある。
減衰力を状況に応じて切り替えられるタイプが主に上級車やスポーティカーに採用されている。複数のオイル通路を切り替えて、減衰力を調整するもので、切り替えには電子制御アクチュエーターが用いられている。
サスペンションの意味は「吊す」。自動車が発展する以前の馬車の時代に、リーフスプリングで車軸を支えていたことからこの名前が付いた。日本でも1950年代までは懸架装置といわれていた。
スプリングは路面からのショックを吸収する。縮んだスプリングは解放されて、元の形状に戻るが、振動はしばらく継続する。振動が残ったままだと、クルマはフワフワと落ち着きのないものになり、接地性も損なわれる。そこで振動を吸収するために設けられたのがショックアブソーバーだ。
筒の中にオイルを満たし、狭いオイル通路を設けたピストンを挿入する。ピストンの軸はボディに繋がれ、筒の一端はサスペンションに繋がれる。サスペンションが上下したり、ボディが上下するとピストンが筒の中で移動するが、その時のオイルによる抵抗がスプリングの振動がいつまでも続くのを減衰する。これがショックアブソーバーの主な働きだ。
この他、伸び側と縮み側の両方に抵抗を発生することから、クルマのロール、ノーズダイブ、スクゥオートを抑える効果もある。また、ロール特性やロールスピードを調整することで操縦性をチューニングすることが可能になる。ショックアブソーバーは単なる振動吸収装置ではなく、サスペンション系の最重要パーツなのだ。
基本的に複筒式と単筒式の2種。
前後でも形状が異なる。
左の複筒式はアウターシェルにもオイルが充填されている。ピストン部分で伸び側の減衰力を発生させ、縮み側の減衰力はベースバルブ部分で発生させる。アウターシェルに低圧ガスを封入するのが一般的だ。
右の単筒式はオイルのみの他、フリーピストンで区切り、下部に高圧ガスを封入したタイプもある。減衰力は、伸び側も縮み側もピストン部分で発生させる。放熱性に優れ、減衰力の立ち上がりが速いという特性がある。
ショックアブソーバーは単筒式と複筒式の2種に大別できる。単筒式は1本の筒の中にピストンとロッドを入れたもの。複筒式は主筒の外側を覆うように2重構造になっている。
単筒式と複筒式の違いはケースの形状だけではない。単筒式はピストンが1個のみ、複筒式はロッドに設けられた主ピストンの他に底部にもう一つのピストンが設けられている。
単筒式の作動は、ピストンが下がるとオイル通路(オリフィス)から下部のオイルが上部に移動し、ピストンが上がると、上部のオイルが下部に移動し、この時の移動抵抗が縮み側と伸び側の減衰力を発生させる。
複筒式では主ピストンが上がると、単筒式と同様にオイルの移動抵抗によって減衰力を発生するが、ピストンが下がる時は、底部の圧側用バルブで減衰力を発生するようになっている。
単筒式は構造がシンプルで放熱性に優れ、倒立させての設置が可能などの特徴があり、複筒式はフリクションが少なく、頑丈という特徴がある。市販車の多くは複筒式を採用し、単筒式はアフターマーケットのスポーツ用として販売されている。ストラットかダブルウイッシュボーンかによって、アウターケースの形状は異なり、また前輪用と後輪用でも形状は異なるが、内部の減衰力発生メカニズムは共通している。
サスペンションの縮み側と伸び側の両方で働く
ピストンはオリフィスとバルブの組み合わせで構成されている。小さな入力域はオリフィスからオイルが出入りし、入力が大きくなるとバルブに引き継がれる。
オリフィスとバルブの特性を組み合わせた減衰力を表した減衰力特性の一例。上側が伸び側、下側が縮み側の減衰力特性を表している。ピストン速度に比例して減衰力も増加するが、公表される数値(Kgf)はピストン速度0.3m/sの時の減衰力。
減衰力はピストンの動く速度と減衰力の数値で表される。減衰力を発生させるのはオイルに満たされたチューブの中で強制的に移動させられるピストンだが、ピストンにはオリフィスというオイルが通過する穴の他に圧力によって変形するバルブ機構も加えられている。ピストン速度が遅い領域ではオリフィスで、速い領域ではバルブが機能する。減衰特性はこの2つを合わせたものだ。カタログなどで示される数値はピストン速度が0.3m/sの時のもので、全体の特性を把握するには図のような、伸び側、縮み側の特性を表した減衰力性能曲線図が必要になる。ピストン速度の低い領域から減衰力が発生すると、車両応答性が高まり、フラットな乗り心地が得られ、ステアリングのレスポンスもシャープになる。
ガス封入式と標準型
オイルと空気のみの標準型。
窒素ガスなどを入れたガス封入式。
単筒式ではチューブの内部はオイルのみ、複筒式ではリザーバー室にはオイルと空気が充填されている。古くから使用され、耐久性に富んでいるが、最近では少数派となっている。
複筒式ではリザーバー室に低圧ガスを、単筒式ではフリーピストンを挟んで高圧ガスが封入されている。冷却性に優れ、減衰力の立ち上がりも速い。最近はコンパクトカーにも採用されている。
単筒式と複筒式はガス封入ありとなしに分類することができる。標準タイプのショックアブソーバーは、いずれの方式も筒の中はオイルと空気のみが充填されているが、ガス式はこれにガスが充填される。
単筒式はピストン下部のケースを自由に移動するフリーピストンで区切り、フリーピストンの下部にガスを封入する。複筒式ではアウターケースの上部にガスを充填する。ガスは主に窒素ガスが使われるが、単筒式は15~2kgfと高圧で、複筒式は10kgf以下の低圧となっている。
ガスを封入する意味は安定した減衰力の発生にある。ピストンスピードの速い領域では、伸びる時にピストン下部が負圧となり、縮む時にはその負圧分の減衰力が損なわれる。
封入ガスの圧力で、ピストン下部にオイルを強制的に送り出すことによって、この負圧を軽減することができ、縮み側(圧側)でも安定した減衰力が得られるというわけだ。またピストンに常に圧力をかけておくことが可能になり、ピストンの微低速領域から減衰力を精密に立ち上げられるという効果も期待できる。
現在では多くの市販車にガス封入式が採用されている。
車種に合わせ、多くのタイプが使い分けられている
ショックアブソーバーの分類。大きく単筒式と複筒式に分類でき、それぞれにいくつかのバリエーションがある。前、後ろ、さらにサスペンション形式に応じて使い分けられている。
減衰力調整
走行状態に合わせ最適に制御。
カーナビ連動調整も登場。
走行状態に応じて自動的に最適な減衰力に調整するショックアブソーバーも、一部のクルマに採用されている。最初に電子制御を採り入れたのはトヨタでTEMS(Toyota Electronic Modulated Suspension)とネーミングし、ソフトとハードの2段階で切り替えた。
調整のモードはオート、スポーツ、ノーマルの3種があり、オートモードに入れると、走行状態に合わせてソフトとハードが自動的に選択され、常に快適な乗り心地が得られ、車両安定性も確保された。
可変制御のためのメカニズムは、オイルが通過するポートを変化させるもので、ロッドをアクチュエーターで回転させる。初期は直流モーターを用い、ギヤを介してロッドを回転させたが、電磁ソレノイドに替わり、現在は精密な制御ができるステッピングモーターが採用されている。
リアルタイムで減衰力を調整するためには路面状況、車両の状況のデータが必要になる。要となる上下Gセンサーに加え、車速センサー、ステアリングセンサー、スロットルポジションセンサー、ストップランプスイッチなどからの情報がECUに送られる。
減衰力調整の最新テクノロジーはカーナビとの連動制御。車両前方の道路曲率をGPSによって検出し、旋回に適した減衰力に調整する他、一度通過した路面の段差を記憶し、再度通過する時にはショックを軽減できる減衰力に自動調整する。
トヨタに限らず、他のメーカーも独自の名称で電子制御減衰力調整式ショックアブソーバーを採り入れている。これらは快適な乗り心地を目指すだけでなく、スタビリティコントロールとも連携し、車両の安定、事故防止にも役立っている。