故障・修理
更新日:2019.09.11 / 掲載日:2019.09.11
ヨタハチのトンデモサビ撃退プロジェクト その2
前回、トヨタス・ポーツ800の下回りの防錆処理を行った際に気が付いたフレームの錆穴。今回はこの錆穴を補修して万全の防錆処理を行うために、ハリー山崎が再び錆に立ち向かう!
通称ヨタハチこと「トヨタ・スポーツ800」、現在でも通用する引き算のデザインを感じてカッコイイ。世界に通用するクールなトヨタデザイン。
歴史的価値のある一台を錆地獄から救出する
日本の自動車産業にとって歴史的価値があるヨタハチの錆穴修理なのだから絶対に失敗は許されない。それだけではない、日本の自動車産業が続く限りこの貴重なヨタハチは、それぞれの時代の愛好家によって日本の貴重なヒストリックカーの一台として何十年もいや何百年もレストアされ続けていくはずだ。ところで、このサイドメンバー以外の車体中空部は、前回の内視鏡検査でキャビティーワックス(ノックスドール700)によって進行が抑制できるレベルで、深刻な錆はこの右サイドメンバーに限定されているのは不幸中の幸い。考えられる修理方法の代表的なものとしては、サイドメンバーのスポットを外し、現在入手できないサイドメンバーはワンオフで作製し溶接するという本格的な修理や、錆穴部分にパッチを当てるといった対処療法的な修理が考えられるだろう。だがサイドメンバーを外すためには、エンジン脱着作業に加えサイドメンバーを鉄板から作り上げるため膨大な時間と手間がかかる。そこで、鈑金や溶接の専門家の方々にこのサイドメンバーの錆画像や前回の内視鏡の画像を送ってセカンドオピニオンを受けることにした。すると「錆穴の周りの錆の進行具合次第だが、写真から判断する限りとあえずパッチ当て修理。その後は錆の進行の経過観察」というのが大方の意見。錆の深さまでは内視鏡画像から判断できないことが問題。錆穴部分を切開し内部の状態を確認する。
インフォームドコンセントの徹底
前回の応急修理した場所
パッチを作製!
ガラスをガード
上向きの溶接は高難度
錆びた部分の鉄板は脆く穴がどんどん広がって……
エアソーで錆穴を拡大していくと、錆で鉄板が薄くなっているところはまるで紙でも切っているようにスッとなんの抵抗もなく切れてしまうのでどんどん穴は拡大してしまう。とはいっても、あまり穴を大きくしてしまうと本来のパッチ当て修理の範囲を超えてしまう。パッチ当て修理の原則は、車体メンバーやフレームが本来持っている材質や強度、そして寸法精度等を損なわない範囲であくまでも補修の範囲にとどめることなのだ。特に、このサイドメンバーのように車体強度に大きく影響する箇所では注意したい重要ポイントだろう。今回の錆穴の場合、メンバーの外側と下側の錆が酷く写真のように穴を開けた。実はエンジンルーム側のメンバー内部にもピット状の錆が進行しており、こちらも切断してしまうところだった。だが、そうするとサイドメンバーの3面に穴を開けることになりパッチ当て修理の原則を超えてしまう。だがよくピット状の錆を観察すると錆被害の範囲は限られしっかりとした鉄板が残っている割合も多いのでこちらは、錆を抑制し残った強度を生かすという考え方で対処することに。溶接作業は、以前に前代未聞の鈑金企画となったDDサクシードのクォーターパネルをBMW流のリベット&グルー法で行った時に助けていただいた溶接機メーカー・ヤシマの齋藤氏に今回もお願いした。御覧のとおりのまるでメーカーラインで装着された補強プレートのような仕上がりにうっとりです。
溶接作業はプロにお任せした
ピット状錆の状態
ブレーキホースの保護
完成
錆とは戦うものではなく上手に付き合っていくもの
溶接箇所は高熱によって周辺の防錆塗装や皮膜がダメージを受けているのでそのままの状態では非常に錆びやすい。このクロスメンバーのような閉断面になっている箇所ではスプレーガンや刷毛で一般的な防錆塗料を目で確認しながら塗布することは難しいのでノックスドール700を360度方向に噴射する特殊ノズルを使ってメンバー内部に噴射し軟質のワックス系防錆皮膜を作る。特に今回は、メンバー内部の溶接箇所周辺はすでに錆びている状態なのでノックスドール700の錆内部まで浸透して錆の進行を抑制する効果も期待し、塗り残しがないようにしっかりと内部防錆をする。ただあまりに錆の再発を恐れ中空部に塗布しすぎると水抜き穴を塞いで水が溜まって錆を呼んでしまうこともあり得るので塗布後に水抜き穴の状態も忘れずに。こうしてヨタハチ君は溶接と防錆のプロによってふたたび安心して走行できるようになって一安心。だが次の100年間この車体の健康を保つためには今回の錆修理箇所も含めた車体の錆進行の全体的な経過観察が重要だと思う。特にサイドシルやフレーム内部は、剥離した錆が水抜き穴を塞ぐことがあり、水が溜まるのみならず中空部内の湿度が高い状態が継続して驚くような速度で錆が進行することもある。ボク自身、つくづく今回のヒストリックカーの錆撃退作業を通して、一病息災ならぬ一錆息災で錆と付き合っていく姿勢が大切だと思うようになった。