故障・修理
更新日:2019.10.01 / 掲載日:2019.10.01

制動力を生みだすブレーキの機能とは

車を動かす役割を担うエンジンに対して、制動力で車を停める役割を担うのがブレーキである。今回は、車の歴史を振り返りつつ、ブレーキの機能や制動力を生み出す仕組みについて解説する。

この記事の目次

4輪制動は約100年前に出現

 人間が、この地上をどんな動物よりも速く走れるようになったのは、人類の長年にわたる英知の積み重ねの結果である。
 たとえば古代エジプト人はコロという一種のローラー・ベアリングを利用して巨石を運搬し巨大なピラミッドを建設した。つまり、滑り抵抗をころがり抵抗にかえて、摩擦を減らしていたわけだ。
 その後、人類は車輪、タイヤ、ベアリング、グリースなどを発明し運動をさまたげる摩擦の悪影響をほぼ完全に排除し、時速300キロで走れるクルマが出現した。
 だが、乗り物が高速化するほど逆に摩擦利用をうまく利用してクルマを短時間のうちに停止させる必要がでてきた。このように乗り物の発展史は摩擦力の排除と利用という二面をもっている。
■4輪ブレーキの採用
 1900年頃までのクルマは全て後2輪制動であった。ところがエンジンのパワーが上昇し150km/h以上の速度が出せるようになると後2輪制動だけでは危険になりはじめた。世界ではじめて4輪制動を採用したのは1913年のインディアナポリスのレースに出場したイタリアのイソッタ・フラスキーとされている。
 また、この頃からブレーキのメカニズムはドラムを外側からはさみこむ外部収縮式から内部拡張式に、またシューの作動方式も従来の機械式からシリンダーを利用した油圧式へと変化した。つまり、この頃に今日のブレーキ・システムの基礎が確立したといってよい。
■発達したブレーキ機能の制動力と、サーボ装置の採用
 クルマがますます高速化すると同時に、モータリゼーションが進展すると、これまでのブレーキ性能では物足りなくなった。たとえば交通量が多くなり交差点に信号が設置しはじめられたので、これまでのようにプープーと警報器を鳴らしながら走り抜けることは不可能になったわけだ。
 いま仮に、130km/hの速度から赤信号を認めて急ブレーキを踏み完全に停止するまで6秒かかったとしよう。そして、このクルマの場合は80馬力で0~130km/h加速が24秒である。とすれば完全停止に必要な時間は加速時の4分の1、いいかえればエンジン出力の4倍のエネルギー(320馬力)を6秒以内にブレーキ系統から大気中に放散させないと6秒以内に停止できなくなる。
 このように「制動とはエンジンで発生した走行エネルギーを熱エネルギーに変えて大気中に放散させること」という理論が解明されるにつれ、ブレーキ・システムにいろいろな改良が加えられた。
 たとえばインテーク・マニホールド内の負圧を利用してシューを拡張する力を倍増させるブレーキ・ブースターがその一例だ。
 また、ブレーキ・シューの取り付け方にも工夫がこらされ、ライニング自体がドラムに対してセルフエナージェイジング(自己倍力作用)をもつユニ・サーボあるいはデュオ・サーボが採用され、踏力が小さく、ホイール・シリンダーにかかる油圧が低くても、ある程度の制動力が得られるようになった。

■ディスク・ブレーキの出現
 今日のように高速道路網が広がり、航続距離が伸びると同時に山岳道路などでブレーキを多用する機会が増えてくると、ブレーキに要求される性能もより厳しくなる。
 たとえば、急制動時の利きの安定性と同時に、ライニングの耐久性、ブレーキを多用した時に発生するフェード現象に対する抵抗力がなければ、ブレーキとしての用をなさない。
 さて、1953年にルマンの24時間耐久レースで、はじめてディスク・ブレーキを採用したジャガーCタイプが優勝して以来、これまで偏見の目で見られていたディスク・ブレーキの真価が正当に評価され、ヨーロッパではレーシング・カーだけでなく一般車にも採用されるようになった。そして1960年代に入ると一種のブームのようにフロント・ディスク・ブレーキのクルマが続々とデビューした。
 さらに1965年代に入ると、アメリカ車特有のメカニズムや道路事情から「アメ車にはディスク・ブレーキは向かない」というジンクスが破られた。
 その先兵は、インディ500マイルで威力を発揮したケルゼイ・ヘイズ社製ディスク・ブレーキの技術を買い、フロント・ホイールにデュアル・シリンダー・ディスクの形で組み込んだフォードである。
 GM、クライスラーは、しばらく静観していたがフォードのディスク・ブレーキがユーザー層に高く評価されていることを知るにつれ、徐々にディスク・ブレーキを採用するようになった。
 またフォードの功績の1つに、キャリバーをフィクスド・タイプ(固定式)からフローティング・タイプ(浮動式)に改良して、ディスク・ブレーキのメカニズムを簡素化すると同時に性能を一段と向上させたことがある。
 一方、ディスク・ブレーキ発祥の地であるヨーロッパでは、ガーリング社、ダンロップ社などがフローティング・キャリパーあるいはスライディング・キャリパーなどの新しいディスク・ブレーキを次々に開発して実用化してきた。
 また、クルマの大きさ、道路事情などの理由からヨーロッパ車の流れを汲む国産車にも、1963年(昭和38年)ぐらいからフロントにディスク・ブレーキを採用したクルマがデビューしはじめた。
■ブレーキの機能を追加~セーフティ・システムの導入
 ブレーキの安全性が重要視されるようになったのは、1967年に施行されたアメリカ連邦政府の安全基準以来のことであろう。
 このころから国産車にもタンデム・マスターシリンダーと2系統ハイピングを組み合わせた2系統ブレーキ・システムが次々に採用された。これは一方のブレーキ回路が故障しても、残った正常なブレーキ回路で制動力を確保するというもの。
 高速時に急ブレーキをかけた場合の安全性を図るものの1つにアンチ・スキッド装置がある。たとえば、前輪ディスク・後輪ドラムの場合、高速で急制動すると荷重がフロント側へ移動し、後輪と路面との粘着力が低下するので、タイヤがロックしてしまう。このように後輪がロックするとクルマのリヤがふられてスピンしやすい。このため急制動時に後輪のホイール・シリンダーへかかる油圧を制御して後輪のロックを防ぐのがスキッド防止装置である。

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グーネットピット編集部

ライタープロフィール

グーネットピット編集部

車検・点検、オイル交換、修理・塗装・板金、パーツ持ち込み取り付けなどのメンテナンス記事を制作している、
自動車整備に関するプロ集団です。愛車の整備の仕方にお困りの方々の手助けになれればと考えています。

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