車の最新技術
更新日:2021.11.26 / 掲載日:2021.09.10

新型iXに見るBMWの電動化戦略【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第22回】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス、BMW

 BMWジャパンは今秋に発売となるBMW iXをメディア向けにお披露目した。すでにオンラインストアでは6月からiXローンチ・エディションの選考受付が開始され、納車は正式発売を予定している。

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「サステイナブル」をテーマに電動化に向き合うBMW

BMW iX

BMW iX

 そもそもBMWは早くから環境問題に取り組み、サステイナビリティを追求してきた。リアガラスに貼られるステッカーが“Freude am Fahren(駆け抜ける歓び)”から“Efficient Dynamics(よりクリーンに、よりパワーを)”に変更したのが2008年(コンセプトの発表は2007年のフランクフルトモーターショー)。BMWらしいダイナミズムを損なうことなく、製品全体で環境負荷低減を図り、サスティナビリティに資するというものだった。

 2009年にはF1への参戦を取りやめた。発表では、リソースをサステイナビリティや環境対応技術に集中させるためとあり、いまのHondaと同じことを12年前に実行していたのだ。2011年には電動車のサブブランドである“BMW i”が立ち上げられ、2013年にはi3とi8が発売された。

 BEVのi3は、今後も増えていくと言われているメガシティ(人口1000万人以上の巨大都市)の交通過密地域へ対応したメガシティ・ビークルという構想から生まれてきたもので、ゼロエミッションのみならず生産段階での環境負荷低減にも取り組んでいた。また、重くなりがちなBEVでもダイナミズムを損なわないよう、CFRP(カーボンファイバー=炭素繊維強化プラスティック)製のパッセンジャーセルを採用。CFRPの量産化にもチャレンジした。ちなみに原材料は日本の三菱レーヨン広島工場製で、アメリカのSGLでカーボンファイバー化され、その後ドイツに送られて製品化されるという工程をたどっていた。

 欧州プレミアム・ブランドのなかでは、いち早く、真剣に電動化へ取り組んできたBMWだが、2台目の量産型BEVとなるのがこのiX。i3の元がメガシティ・ビークルであるように、iXにはヴィジョンiNEXTがある。新世代のBEVであり、自動運転技術やアクティビティなども追求した近未来的なパーソナルモビリティというのがiNEXTのコンセプトだったが、量産型のiXでは自動運転技術に関してはまだ大きな進展はないようだ。

 それでも実車を目の当たりにすると、新世代BEVとしての新鮮さはある。ボンネットは固定式。今どきエンジン車でも一般的なユーザーがボンネットを開けることはほとんどないだろうが、BEVになればさらに必要はなくなる。インテリアでは、六角形の斬新なステアリングホイールが目をひき、横長のディスプレイは湾曲していてBMWが昔からこだわるドライバーオリエンテッドをデジタライズ化されたなかで実現していることに嬉しくなる。

 プラットフォームは多くのRWD系BMWで用いられているCLARと互換性があるものだが、アルミニウム製スペースフレームとカーボンファイバー製ケージを用いて専用に開発されたもので、今後のBEVの礎となるのだろう。全長4953×全幅1967×全高1695mmとX5とほぼ同等のボディサイズで車両重量は、バッテリー容量76.6kWhのiX xDrive40で2380kg、111.5kWhのiX xDrive50で2530kg。V8搭載のX5 M50iが2310kg、直6搭載のプラグイン・ハイブリッドであるX5 xDrive45eが2500kgであることを考えれば、BEVとしては軽量に仕上げられているのがわかる。

 電気エンジンと呼ばれるモーターは前後に搭載されシステム出力およびトルクはiX xDrive40が240kW(326PS)、630Nmで0-100km/h加速は6.1秒、iX xDrive50が385kW(523PS)、765Nm、4.6秒となっている。モーターは自社開発となっており、さすがはBayerische Motoren Werkeだ。

 大容量バッテリーは航続距離を伸ばしてくれるのでありがたいが、課題は充電。国内のCHAdeMOの急速充電器は2020年5月で7700基と、それなりに数は増えてきているが(2030年に3万基が政府目標)、大容量バッテリーのモデルにとって現状では充電器の出力が物足りない。たとえば海老名サービスエリアでは上下ともに40kWが2基、90kWが1基あるが、40kWで30分充電しても20kWh弱しか得られない。iX xDrive40の電費は22.5-19.4kWh/100kmとなっているので、モード通りに走って約100km分が充電できるというところだ。90kWの充電器ならば、30分充電で45kWh弱となるので約225kmとなり、だいぶ利便性はあがる。

 クルマ側の充電受け入れ能力も大出力に対応している必要があるが、ほとんどの輸入車はCDAdeMOでは50kWが上限となっていて90kWの充電器をいかせないのが現状。その点、iXは90kWはもちろん、将来的に普及するCHAdeMO150kWにも対応している。

 さらに、全160箇所のディーラーに急速充電器の設置を進めていて2021年内には7割は完了する予定だという。東京・お台場のBMW Tokyo Bayにはすでに90kWの急速充電器を2基設置済み。スイスに拠点を置くABB社製のTerra184で1基あたり2台の同時充電が可能となっている。

 テスラやポルシェも独自の充電ネットワークを構築しつつあるが、BMWも素早く動いているということだ。大容量バッテリー搭載車を便利に使っていくには、必要不可欠な措置であるだろう。BMWは2025年までにグローバルで累計200万台のBEVを販売し、2030年には販売するモデルの50%をBEVとする。iXと同じくi4はすでに先行受付が開始されており、続いてiX3、iX1、さらにはほとんどのセグメントでBEVが用意される見込みだ。

東京・お台場のBMW Tokyo Bayにはすでに90kWの急速充電器を2基設置済み

東京・お台場のBMW Tokyo Bayにはすでに90kWの急速充電器を2基設置済み。同時に4台の充電が可能となっている

執筆者プロフィール:石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。どうぞお楽しみに!

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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